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This web site is only compatible with Japanese text. FM TOWNS SN のアルミ電解コンデンサを交換する
はじめに世の中、大抵のものには寿命が存在します。 これは電子部品も例外ではない訳ですが、特にアルミ電解コンデンサは寿命が短い傾向にあります。 寿命といっても、いわゆる容量抜けならば良いほうで、封止ゴムの劣化で液漏れし、短絡事故や基板の腐食を発生させ、機器を再起不能に追いやる事もあります。特に世間一般でいう所の「四級塩電解コンデンサ」と呼ばれるもの ( 厳密には 4 級塩という表記が正解のようですが、この記事では広く使われている呼び方に合わせて表記します ) の中で未対策品は、高確率で液漏れします。 この四級塩電解コンデンサは、製造時期から見て FM TOWNS SN に使用されていてもおかしくありませんし、例え使われていないとしても液漏れしない、とは限りません。 FM TOWNS SN も平成七年 ( 1995 年 ) の製造から長い年月が経過しています。さすがにアルミ電解コンデンサを更新しようと思い立って実際に交換しましたので、その際に行った交換部品を選定する手法の備忘録を公開します。 アルミ電解コンデンサの選び方まずアルミ電解コンデンサ ( 以下、電解コン ) を交換する際の要点を記載します。交換用の電解コンは、極力特性を合わせてください ( 特性が異なるものを使用してもいいですが、他の部品と整合があっていることを確認してください。 ) 主に確認するのは、使用電圧 ( リプル電圧 ) 、静電容量、極性、リプル電流、使用温度です。必要な性能を満たさない電解コンを使うと、機器が故障することがあります。 ( 動作が安定しない、液漏れによる短絡、異常発振など ) これに加えて、基板上や電源ユニットの高周波トランス二次側の電解コンは ESR ( 等価直列抵抗 ) を、電源ユニットの高周波トランス一次側の電解コンはタンジェントデルタを、既存のもの以上の性能を有する品種 ( つまり、数値が同等もしくは低いもの ) でなるべく近いものを選定してください。これらの数値が高い場合は、電解コンの自己発熱による短寿命化に、低すぎる場合は過大な突入電流による機器の故障を招きます。 電解コンの形状には各種ありますが、チップ形、リード形、基板自立形が使用されています ( ネジ端子形というのもありますが、私は今のところ電子機器で用いられているのを見かけたことがありません ) 。基板ではチップ形とリード形が、電源ユニットではリード形と基板自立形が主に使われます。 既存の電解コンがリード形、基板自立形の場合、大抵はメーカー名と品種名が書いてありますので、それを頼りに納入仕様書 ( データシート ) を入手して特性を確認しましょう。納入仕様書がなくても、カタログに代替推奨品が記載されていることもあります。 チップ形の電解コンを交換するとき、多くの場合は入手性や実装の手間を考慮してリード形へ置き換えることが多いと思いますが、リードを加工するときは封口ゴムのシール性能を損なわないよう ( ストレスを与えないよう ) にリード線を加工するよう心がけてください。 電解コンデンサ撤去のコツ電解コンを撤去する場合、リード形の電解コンの場合は基板の熱容量やスルーホール、端子部の加工などを考慮する必要があるものの、そこまで難しくは有りません。 しかしチップ形の電解コンでは、作業手順を考慮しないとパターンを剥がしてしまうなど基板を傷めてしまいます。基板を無意味に傷める事は誰も歓迎しないと思いますので、基板を極力傷めずに電解コンを撤去する参考手順を以下に示します。 基板の清掃を何度かに分けていますが、これは電解液の焦げ付きによる清掃の手間を回避する為です。まとめて清掃する場合は、省略して構いません。
四級塩電解コンデンサの何がいけないのか冒頭で書いた「四級塩電解コンデンサ」について、少し記載しようと思います。 世間一般でいう所の四級塩電解コンは、電解液の主剤となる溶質に 4 級アルキルアンモニウム塩、基剤となる溶媒にブチロラクトンを用いた長寿命な電解コンとして、主に昭和六十二年 ( 1987 年 ) 頃から平成七年 ( 1995 年 ) 頃を中心に、平成十二年 ( 2000 年 ) 頃まで各コンデンサ製造メーカーから出荷、流通していました。 開発当時の状況が分かる資料を未だ発見していないため、正確な経緯は不明なものの、どうやら当初は、電解液に強塩基性の成分が含まれていても全体としては中和された状態なので問題なし、と判断されていたようです。 実際に生産を開始してみると、通電の有無とは直接関係する事なく、電解コンの陰極側リード線の周辺に塩基性の成分が偏在化してしまう状態となり、結果、劣化してシール性能が保てなくなった封口ゴムの陰極側から、電解液が漏れ出す事故が多発する事態となりました。 液漏れが発覚し始めた時点、一説には平成五年 ( 1993 年 ) 頃から、各コンデンサ製造メーカーは封口ゴムをブチルゴム ( 止水性能が比較的優れてはいますが、完璧では有りません。完璧な止水が可能なら、防水層、ハンドホール、外壁側の金属建具の四方枠やピットのスリーブなどの止水に苦労する事もないでしょう。 ) がベースの素材へ変更するなどの対策を行ったようです。 被害の大きさや、部品を組み立てて製品を販売するメーカーはもちろん、需要家側でも四級塩電解コンの使用を禁止 ( たとえば NTT ) する動きが出た事も影響したのか、各コンデンサ製造メーカーでは順次、溶質を 4 級化イミダゾリニウム塩に変更した品種へ切り替えていったようです。 液漏れの影響四級塩電解コンの液漏れを放置した場合、まずは基板の腐食が進行していきます ( 参考写真-9、参考写真-10 ) 。参考写真では分かりにくいですが、よく見るとハンダ表面の劣化、スルーホールやパターンの腐食が見受けられます。 ( 「5F1」の電解コン左側、「1F1」の電解コン右下側のスルーホールに付着する青い結晶のようなものは、液漏れした二次電池の電解液と思われます ) 四級塩電解コンの液漏れは最終的に基板表層のパターンの断線 ( 参考写真-11、表面的に断線は見受けられなくても、漏れた電解液が侵入している基板と絶縁シートの間の部分で断線の可能性があります ) 、もしくはスルーホール ( 参考写真-12、写真は二次電池による被害の例 ) 、基板の焼損 ( 参考写真-13 ) を招きます。 液漏れ被害は、発覚した段階で早急に対処する事をお勧めします。時間が経過してから交換しようとすると、電解液の清掃や基板の点検に余計な手間が掛かりますし、交換時に基板を破損させる確率が高まります。 なお PC-9800 シリーズで見かける横形面実装タイプの電解コンに関し、電解コンのアルミ缶を覆うプラスチックは黒色 ( 参考写真-15 ) と白色 ( 参考写真-9 ) が有ります。黒色の電解コンに対して白色の電解コンは後年に製造された本体で見かける事から、黒色の電解コンの方が製造開始時期が古いと思われます。 これに関連し、白色の電解コンは平成二十二年 ( 2010 年 ) 頃よりも前は広く知られる様な液漏れ報告が無かった事もあり、液漏れしないとされていました。しかし先ほど提示した様に、今となっては白色の電解コンも液漏れするという報告が挙がっていますので、電解コンを点検する時は油断せずに液漏れしていないか調査する必要が有ります。 四級塩電解コンデンサの判別方法四級塩電解コンかどうかは、品種名で判別できる場合が有ります。たとえば日本ケミコン株式会社だと品種名の末尾に F が入る、パナソニック株式会社だと品種名に HF が入る、エルナー株式会社だと品種名に RS が入る電解コンは、一般的に四級塩電解コンである可能性が高いようです。 余談ですが、昭和六十二年 ( 1987 年 ) 頃から平成十二年 ( 2000 年 ) 頃までに製造された電子機器や、電力用途のうち監視や制御に用いる機器全般は当然ですが、自動車の ECU のようなものでも問題の電解コンが用いられている報告もあります。対象となる年代の車種を所有するオーナーさんで末永く乗りたい方は、ECU もメンテナンスする事をお勧めします。 おまけおまけと書いていますが、どちらかというとこちらのほうが本題です。この場に内容をすべて記載すると大変見辛くなってしまいますので、電解コンの種類と数量を記載した一覧表の表計算ソフト用データを公開します。 PC-H98 U90-002 については、KAZZEZ 様からご指摘頂き、データを修正しました。 製造時期やロットにより電解コンの仕様や数量が異なる事が考えられますので、必ずご自分で現物を確かめてから部品の発注と交換を行ってください。
上記以外に、過去に SNS へ投稿していた緑電子株式会社の MDC-55NSA の電解コンは、参考写真-14の通り 6.3V10µF×2個、6.3V22µF×1個、参考写真-15、参考写真-16の通り四級塩電解コンの為、参考写真-17 の様に交換しました。 そのほか数量の記録は残っていませんが、FM R 50 CARD の AC アダプターで、パナソニック株式会社の HFQ を日本ケミコン株式会社の LXZ へ、パナソニック株式会社の NHE ( 表記は GE ) をニチコン株式会社の PS ( 旧 PR ) へ置き換えた記憶があります。 先述したもの以外に、以下の記事でも電解コンデンサに関する情報を記載しています。
また PC-9800 シリーズについては工作室の記憶様の「マザーボード上の四級塩電解コンデンサの交換」を中心とした各記事が公開されていますので、そちらを参照して下さい。 おまけ その 2一般的に電解コンの不良というと四級塩電解コン以外に、平成十四年 ( 2002 年 ) 夏頃に発覚したとされる、台湾製電解コンで発生した水系電解液の水和反応事故が原因と思われる不良、平成十五年 ( 2003 年 ) から平成十七年 ( 2005 年 ) 頃に販売された機種で発覚した、ニチコン製電解コンで製造上の不備 ( 電解液の過剰注入とされる ) の不良が有名です。 しかし先述した事項以外に、米国製電解コンの低品質が原因で家電の故障が多発していた時期が有った、という証言をレイノン様がされています。 電解コンデンサ代替品の参考例電解コンを置換える際は、特性を合わせる事が原則です。これを考えると、置換え用の電解コンを探し出す為には各メーカーのカタログや納入仕様書を片っ端から探し回る手間をかける必要が有りますが、あまりにも大変です。 そこで探しやすいよう、既存の電解コンと置換えできる可能性がある電解コンの相対表を以下に掲載します。あくまでも目安であり、耐圧や容量、寸法などの組み合わせによっては置換えできない事も有りますので、最後はご自身で納入仕様書を確認し採用の可否を決定してください。
電解コンを置換える際、どうしても既設の電解コンと同等サイズの物が見つからない場合が有ります。そういう時は電解コンを MLCC ( 積層セラミックコンデンサ ) へ置換える方法も有りますが、特性の違いを考慮する必要が有ります。 MLCC を製造するメーカーから技術資料が出ていたりしますので、それを参照してください。一例として、TDK 株式会社の資料を提示します。 参考文献
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