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筐体を接着したい ( 実施編 )
Special thanks!!!
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この記事の一部は、にが HPのにが様、うみゅのゆうくん様のご指導、ご協力により完成しました。ご指導、ご協力してくださったお二人に、感謝の意を表します。
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接着剤の分類など基礎的な事は「調達編」に記載していますので、そちらをご覧ください。
新たに製作した部材を接着する場合、接着面は応力が剥離する方向にならないよう注意しながら、接着する面積を出来るだけ大きくすると剥がれにくくなります。例えば継手部分を接着するのであれば、接着面を剥離する方向とは 90 度ほど向きを変える、断面を斜めにするなどの対処でより効果を発揮できると考えられます。
欠けたり割れたりした部材を接着する場合は、状況により極力隙間ができないよう接着する為に治具を製作するか、一旦、破壊面を削るか切断して、新たに製作した部材と組み合わせる事を検討する必要も有ります。
部材は一般的に、接着前の第一段階として酸化物や不必要なめっき及び塗装を除去する意味も含めて、接着面を目荒らし ( 表面を均一にザラザラにする事で、食いつきを良くする事 ) すると、良い結果を得やすくなります。金属や合成樹脂の場合は、番手が 1000 番程度の研磨紙 ( 紙やすり ) で目荒らしするのが良いでしょう。
余談ですが、コンクリート面へ接着する際の目荒らしは研磨紙やワイヤーブラシ程度だと不十分で、超高圧水洗浄が適切です。
部材の目荒らしが完了したら、第二段階として油分や離型剤などを取り除く為に洗浄します。具体的な方法は以下に記載しますが、全ての金属や合成樹脂で同じように適用できるとは限らないので、条件に応じてアレンジしてみて下さい。
下地処理の手順 |
素材 |
説明文 |
金属 |
はじめに、研磨紙やワイヤーブラシ、希塩酸などを用いて、目荒らしと酸化物や不必要なめっき及び塗装の除去を行います。平滑度が重要な部分に研磨紙を用いる場合は、研磨紙を平たいものに巻きつけて作業します。
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目荒らしが終了したら、離型剤や加工油などを除去して脱脂する為に、灯油や有機溶剤、専用の洗浄液が有る場合はそれで洗浄します。
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続いて、中性洗剤で仕上げ洗浄します。脱脂後に仕上げ洗浄を行わないと薄い油膜が残る場合が有り、そうなると接着剤の性能に悪影響を及ぼしますので、注意して下さい。
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最後に、清浄な水を用いて洗い流して乾燥させて下さい。
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合成樹脂 |
はじめに、研磨紙などを用いて、目荒らしと不必要なめっき及び塗装の除去を行います。
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目荒らしが終了したら、離型剤や加工油などを除去して脱脂する為に、中性洗剤で洗浄します。
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最後に、清浄な水を用いて洗い流して乾燥させて下さい。
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溶剤を用いた方が脱脂を含め洗浄しやすいように考えるかも知れませんが、合成樹脂の表面を劣化させてしまうおそれがあるので、溶剤を用いても問題ない事が確認できていない限り中性洗剤を用いた方が良いでしょう。
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金属の洗浄に関して、酸化した部分の除去では希塩酸 ( サンポール等 ) へ漬ける方法も有りますが、いくつかの注意点が有ります。詳細はセガサターンのパワーメモリー認識法を参照してください。
部材の洗浄が完了したら接着する作業を行いますが、接着剤の性能を発揮させる為には、作業手順を遵守する必要が有ります。
具体的には接着剤を混合した後、接着剤を塗布して接着が完了するまでの制限時間や、逆に接着剤塗布後、接着を開始するまでのいわゆるオープンタイムの遵守、接着後に安定するまで治具などで固定して養生し、静置する事が必要です。
上記までは接着剤自身の解説でしたが、ここからは FM TOWNS SN の筐体の補修に関する記録を掲載します。
亀裂の補修記録 |
参考写真 |
説明文 |
参考写真-1 |
FM TOWNS SN の筐体を分解して、ねじ穴の金属部品とそれを固定する合成樹脂の部分を拡大したところ。
合成樹脂の部分で、縦方向に亀裂が入っている事が分かります。5 インチ FDD である FD1155D などのレバーも同じ状況に陥っている事が有りますが、今回と同様な方法で補修が可能です。
亀裂が入った原因は不明ですが、おそらく成型時から持っている残留応力、合成樹脂と金属の熱膨張係数の違い、合成樹脂の可塑剤などが抜けた事で体積に変化が生じた、などに依る引張力で割れた可能性が高いと考えられます。
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参考写真なし |
今回の様な場合、亀裂が入っている部分に接着剤をただ塗れば良い訳では有りません。めねじアンカーと母材の合成樹脂の間は噛み合わせる為の溝を複雑に切ってありますが、亀裂が入ったことで出来た隙間を適切に処理しないと、めねじアンカーの引抜耐力を確保出来ません。
補修方法として一番最初に検討したのが、適当な厚紙で型枠を組んでからエポキシ樹脂系接着剤で巻き上げる方法でした。
しかしこの方法では、めねじアンカーと合成樹脂の間に有る隙間へエポキシ樹脂系接着剤を行き渡らせるのが困難と判断しました。単純に上から押し込もうとしても、隙間に有る空気が邪魔になる事、空気を上手く抜けない事が理由です。
エポキシ樹脂系接着剤以外で、手元に有ってそれなりの効果を上げそうな接着剤を探した結果、次に樹脂系溶剤形接着剤を検討しました。
最終的に、めねじアンカーと合成樹脂が噛み合う様に位置を調整してから締め付けて、成型時の形状になる様に溶着すれば引抜耐力も確保出来ると判断し、樹脂系溶剤形接着剤で接着する事にしました。
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参考写真-2 |
接着剤を塗布しているところ。
偶然にも筐体内部に隠れる部分でしたので、あまり丁寧には作業していませんが、これが仮に外部に面して目立つ部位だった場合、補修方法を工夫する必要が有ります。
例えば、ねじ穴の金属部品を固定する合成樹脂の小口の部分だけから接着剤を浸透させる、補修後に塗装するなどの工夫をしないと、補修跡がめだってしまうおそれが有ります。
接着剤を過剰に塗布すると「5.25 型 FDD のフロントベゼルを製作してみる」で掲載したような微小な変形が発生したり、場合によってはソルベントクラックという亀裂が発生して割れてしまう可能性も有りますので、適切な塗布に努めて下さい。
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参考写真-3 |
接着剤塗布後、治具を用いて固定しているところ。
合成樹脂が今回のような形状の場合、接着剤を塗布してから安定するまで、仮止めしておく必要が有ります。さもないと、本来の形状で接着する事は不可能です。
今回は多少の傷が付いても良いが、指先では仮止めできる状態では無い、また治具を製作する程の箇所数でも無いという理由から、ワイヤストリッパを代用して、仮止めする事にしました。
先述したソルベントクラックを抑制する為には、適切な塗布の他にはみ出した接着剤のウエスによる拭き取り、換気による蒸発した溶剤の除去を行うと良いでしょう。
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参考写真-4 |
補修完了後の様子。
今回は亀裂のある部分の全体に接着剤を塗布して補修しましたが、写真では分かりにくいものの、事前の予想通り、ねじ穴の金属部品を固定する合成樹脂の表面も少し溶けている事が分かります。
外部から見える、塗装してあるなどの理由で表面が溶ける事を避ける為には、先述した通り小口の部分から接着剤を浸透させて硬化させたのち、亀裂の部分からはみ出た合成樹脂をカッターなどでそっと削り落とすのが良いでしょう。
なお、今回は接着剤にスチロール樹脂用の樹脂系溶剤形接着剤を使用しましたが、筐体は写真に写っている通り ABS 樹脂製です。本来ならば接着できない筈なのですが、接着剤の成分表を見ると殆どアセトンだったので試してみたら、偶然にも接着に成功しました。
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参考写真なし |
今回、手元に有ってそれなりの効果を上げそうなのが樹脂系溶剤形接着剤だったので、締め付けてから溶着する工法を選択しました。
しかし、にが様から頂いている「締め付けて接着固定だと残留応力が接着部位に集中してまた割れるような気がします。」との意見の通り、今回の方法は時間が経過してもう少し酸化防止剤や可塑剤が抜けた時点で、脆性破壊を起こして一気に割れる可能性が有ります。
よって、にが様の発案した方法である「最初におゆまるで外形を型取りし、割れ部分を V 字に削って隙間を拡大してから、型取りしたおゆまるをはめ込んで隙間をプラリペアで充填 ( 粉で埋めて液を垂らす作業を数回に分ける ) します。この手法であれば残留応力が発生しません。あるいは周囲に C の字型に成形したアルミ金具を嵌めてエポキシで固めてもいいと思います。」の方が良いでしょう。
なお、プラリペアの粉を隙間へ充填する際は、粉を入れてから筆の柄などで合成樹脂の部分を軽く叩くと隙間にしっかり充填しやすくなります。
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おまけ写真-1 |
これは、PC-9821 のノート機のヒンジ部分を拡大した様子です。ねじを止めた状態では異常が無いように見えます。
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おまけ写真-2 |
しかし分解すると、亀裂が入っている事が分かります。
これを放置するとそのうちねじ穴の金属が筐体から外れて、液晶パネルの支持が取れなくなります。そして更に放置すると、液晶パネルの開閉を検知するスイッチへ繋がる FFC が断線してしまい、本体側が液晶パネルの開閉を正常に認識できなくなります。
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保管する時は高温を避けて、涼しい冷暗所に保管しましょう。なお、有機溶剤が揮発して使用不能になる事も有りますので、出来るだけ短期間のうちに使い切る事を推奨します。シアノアクリレート系接着剤は空気中の水分に触れると化学反応で硬化しますので、保管時は密閉容器に乾燥剤を入れて保管しましょう。
もしも接着剤そのもの、もしくはそれらの使用法に関してもっと詳しく知りたい方は、PC を主体に扱ったウェブサイトではなく、プラモデルや鉄道模型を主体に扱ったウェブサイトで探すと、もっと詳細な解説が見つかると思われます。
参考文献
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