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セガサターンのパワーメモリー認識法


もくじ

はじめに

セガサターンの端子類は接触不良を起こす事で有名で、パワーメモリーも接触不良が主な原因となってデータを破損したり、そもそもパワーメモリー自体を認識しなかったりする事で有名です。

この記事では、考えられる原因や対策法を解説していきます。


接触不良の原因

セガサターンに限らずに、端子類の一般的な接触不良の原因として、主に次の要因が挙げられます。

接触不良の要因の一例
  • メッキのピンホール
  • 錫メッキと金メッキの組み合わせによる腐食 ( 異種金属接触腐食 ) 
  • カシメ不良や接触圧力の不足から来る緩み ( ボルトを用いた端子台の場合は、トルク値の管理が行えていない ) 、コンタクト自体の接触力が構造的に弱かったり、表面の仕上げが荒い
  • 振動による微摺導摩耗
  • 雰囲気に腐食や通電を阻害するガスや粉塵がある

端子のコンタクタには、弾力性や導通性の観点から銅合金をベースにした母材に、接点の信頼性向上などの目的で銀や錫、金によるメッキが行われます。

錫メッキは酸化錫皮膜が端子の挿抜時に剥がれる事で良好な接触を得やすいですが、挿抜回数に制限があるなど信頼性に難点があります。一方、下地にニッケルメッキを行った金メッキ ( 耐摩耗性を補うため、実際には金以外の材料も用いている ) は他材料によるメッキと比べ、展延性や耐食性に優れる事から信頼性を必要とする端子に多く採用されます。


メッキのピンホール

メッキにおけるピンホールとはメッキ面に存在する数 μm 程度の微細な穴の事で、コンタクタに行うメッキの場合、3μm 程度までメッキ層の厚さを確保すればピンホールを消失させる事が可能なようですが、一般的に特殊用途のコンタクタを除いて、これよりも一桁から二桁ほど薄いメッキしか行わない事から、ピンホール自体はどのコンタクタでも持っています。

また近年は、端子自体の微細化やコストダウンの要求から、メッキ層を薄膜化する傾向にあり、これがピンホールを増加させる原因となっているようです。

ピンホールが起こる原因はいくつかあり、例として挙げられるのはコンタクタの母材の表面粗度が荒くてメッキの材料が十分に行き届かない、被メッキ面の脱脂や洗浄が不十分、もしくは洗浄後の異物の再付着、メッキを行う浴槽内にある異物や気泡の被メッキ面への付着、などです。

ピンホールを埋める為には封孔処理を行いますが、この時に使用する封孔処理剤がどの程度効果が有るのかは不明なものの、流動性のある油状の処理剤の場合は長期的に見て、基油の酸化、ドライアップ、埃の凝集や挿抜を重ねた事などの理由で性能が低下して、結果的に後述する異種金属接触腐食や微摺動摩耗の発生と、これに伴う接触不良の発生が考えられます。


異種金属接触腐食

異種金属接触腐食は、イオン化傾向が大きく異なる金属を接触させ続け、そこに電解質溶液 ( 一般的な環境下では水分が多い ) も加えた時に、卑金属だけが腐食する現象の事をいいます。

イオン化傾向とは、金属の塊から金属イオンが析出しやすい度合の事で、イオン化傾向が比較的大きい金属 ( これを卑金属という ) の代表としてリチウム、アルミ、亜鉛、比較的中間値の金属として鉄、錫、銅。イオン化傾向が一番小さい金属 ( これを貴金属という ) のは金です。

なぜイオン化傾向が異なる金属を接触させ続けると腐食するかというと、電子量が異なる金属が接触している面に、水分が加わると電池が形成され、卑金属がアノードとなって外部から電流が流入して ( つまり電子が流出して ) 卑金属がイオン化 ( 腐食 ) してしまうからです。

SIMM メモリで金メッキを施してあるソケットに、錫メッキが施されたモジュールを刺すと接触不良を起こりやすいのは、これが原因です。こういう時の根本的な解消法は、接触する金属をイオン化傾向が同じ金属へ変更する ( つまり金メッキ同士か錫メッキ同士 ) 事です。

このほか、下地にニッケルメッキを行った金メッキでのピンホールの場合、ピンホールが下地のニッケルメッキまで到達している状態で電解質溶液が付着すると、ピンホール部分から腐食が進行する事もあります。

この現象は傍から見ると迷惑極まりない気がするのですが、逆にこれを応用して、防食を行う方法もあって、誰でもお世話になるのが鉄への亜鉛メッキです。鉄に、鉄から見ると卑金属な亜鉛でくるむことで、鉄が錆びる前に亜鉛が腐食する事で鉄の腐食を防いでいます。


カシメ不良

カシメ不良は圧着不良を意味していて、一般に圧着端子での話なのですが、同様な話として端子台で電線をねじ止めしている時のトルク管理不足だとか、コンタクタの接触圧力が適切でない等も挙げられます。

電線や端子の使用電圧が低い場合は、せいぜい動作不良程度の話で済みますが、これが電圧が高い ( 要は AC100V 電源など ) と、圧着不良の部分で加熱して最悪は燃えます。

ご家庭のコンセントで、使っている時に触るとなんだか暖かいコンセントがある、という場合は、延長コードであれば交換を、壁についているコンセントの場合は有資格者でないと触れませんので、念のために地域を管轄している電気保安協会や信頼できる電気工事店などに、点検を依頼される事をお勧めします。


微摺動摩耗

微摺動摩耗 ( びしゅうどうまもう ) は別名、フレッティングコロージョンとも呼び、端子が接触している部分に存在している微細な酸化した粒子などが、振動等により端子の接触表面を徐々に破壊していく現象を言います。この現象は金メッキより錫メッキに顕著に発生するとされています。

ただ金メッキであってもこの現象は起こり得るようで、メッキの厚さが不均一であったり、メッキ面でメッキが出来ていないピンホールが存在していると、その部分に不純物が吸着かつ堆積して、高温や高湿の時期に不純物が硬化し、接触不良が起こるようです。


セガサターン特有の事項

セガサターンでは上記に加え、さらに不安要因があります。

セガサターン特有の不安要因
  • そもそも、製造から 20 年近く経ていることから、フラッシュメモリーそのものの寿命
  • 拡張端子とパワーメモリー、及びその周辺が全体的に余裕をもっているからか、緩めである。
  • しかしパワーメモリーには、SIMM メモリモジュールにあるようなパリティビットなどエラー検出機構が備えられていない

どんな電気機器にも寿命が存在しています。セガサターンは既に、設計時に想定した寿命には達していると考えられます。また、フラッシュメモリーは書き換える度に素子が劣化していくので、書き換え回数に上限があります。

どう頑張ってもパワーメモリーが正常に使用できない場合、内部のフラッシュメモリーが書き換え回数の上限に達してしまっている可能性もありますから、別個体への交換も視野に入れると良いでしょう。


実際に触っていると感じますが、パワーメモリーを拡張端子に差し込むのに殆ど抵抗を感じません。別に抵抗が有れば良い訳ではないのですが、それにしても少々緩いように感じます。一方で、BABAX 氏曰く拡張端子のコンタクタは 0.1mm ピッチで PCI スロットよりも狭く、余裕はない様です。

これらを欠点として捉え検討すると、コンタクタの基板への接触圧力が適切でない、コンタクタとパワーメモリーの基板が斜めに接触して接触不良を起こしている、端子も基板も、本体のケースも全体的に余裕 ( というか隙間 ) をもっているにも拘らず、コンタクタのピッチには余裕がないので、うっかり信号線同士が接触して短絡している、という可能性が出てきます。


端子や基板は全体的に余裕を持っているにも関わらず、パワーメモリーそのものにはエラー検知機構を設けてたりはしていないようです。出来ればこういう面にも力を入れて貰いたかったなと思いますが、セガサターンの設計が行われていた時代、メモリは全体的に高価な物でしたので、値段を考えるとやむを得なかったのかも知れません。

メモリの値段で分かりやすいのは SIMM メモリモジュールでしょう。平成一桁台の頃は、発売時点では大容量な SIMM メモリモジュールは定価だと諭吉さんが何枚も飛んでいく代物でした。

PC-98 界隈では 64MB や 128MB で EDO かつ ECC 付な SIMM メモリモジュールは、その恐ろしい値段と本体側が認識しないかもしれないリスクから漢メモリなどと呼ばれたりしていましたね。

今では、かつてと比べれば安価な金額で入手できる事もあるので、良い時代になったものです。


まずは清掃

まずはこれを行わないことには始まりません。綿棒と洗浄液 ( 一般的にイソプロピルアルコールが主流 ) を用意して、綿棒へ洗浄液をしみこませて磨きましょう。ただし端子のメッキを傷つけないように注意してください。端子が傷つけば、それだけコンタクタの劣化による接触不良を起こす確率が高まります。

仕上げに楽器やカメラ、メガネに使うクリーニングクロスを用いると幸せになれるかも知れません。


スロットの隙間を埋める

次に試す方法として、半差しと楔打込工法があります。

ただし、半差しは道具の用意や改造を行うことなくできるものの、あまり安定しません。ですから、楔打込工法をお勧めします。

楔打込工法とは楔をパワーメモリーと本体の隙間に打ち込み、隙間をなくして固定するというものです。パワーメモリーの交換に手間がかかるのが難点ではありますが、確実性からいえばこちらが上です。

簡易版として、厚紙を挟む方法もあります。


接点復活剤

先述した方法を行っても改善しない、効果が長続きしない場合は接点復活剤を使用すると良いかもしれません。色んなメーカーが用途に合わせて色んな種類を出していますので、好きな物を選んでください。ただ、あまり余計な成分が含まれている物は微摺導摩耗の原因になりかねないので、避けた方が良いでしょう。

 ( 個人的には、高い効果を得ようとしていわゆるオーディオ用などの様な高価な製品を購入しても、期待したほどの効果は得られない可能性が高いのでお勧めしかねます。 ) 

接点復活剤を使用する際、端子に直接吹きかけるのは避けたほうが良いでしょう。なぜならば、端子の絶縁部分が不用意に汚損する事により、絶縁性能の低下が心配されます。出来る限り、コンタクタのみに塗布するように心がけましょう。

使用した接点復活剤に油分が含まれている場合、埃が堆積しやすくなることが有りますので、取扱いに注意してください。

なお、上級者の中には俗にいう鉛筆ゴシゴシで解決を図る人もいるようです。


コンタクタ起こし

端子のコンタクタを起こす方法で、作業性を考慮すると本体の分解が必要になります。いきなり本番を行うとコンタクタを壊しますので、何かで練習した上で行った方が良いでしょう。

これを行うには、冶具の製作が必要になります。細いワイヤーをパワーメモリーの基板の幅くらいになるよう折り曲げ、そのワイヤーを拡張端子に挿入してコンタクタに引っ掛け、コンタクタを起こします。

コンタクタの起こし方にムラがあれば、起こしきれなかったコンタクタは十分な接触圧を確保できず、起こし過ぎたコンタクタは過剰な接触圧でメッキ面の損傷による劣化を起こしますので、注意が必要です。

またコンタクタと同時に、カートリッジ側の接続部両脇にバネ状なっている金属があるので、それも起こすとより良いでしょう。


アクセスランプの設置

これはセガサターン界隈では有名な BABAX 氏が提唱されている方法です。これはパワーメモリーへの改造を伴います。

アクセスランプで状態を見分けますが、アクセスランプが明るく点灯していれば良好なようです。試した事はないので分かりませんが、あの伝説のモデムにも応用できる方法なのでしょうか。


確認の徹底

上記の対策を行ってもデータ破壊の確率を下げるだけでしかないので、起動時に必ずパワーメモリー内データのチェックを行うようにしてください。

サターンのパワーメモリーの管理画面でデータ名やコメントは正常か、ブロック数は正常か、謎のゴミデータがないか、文字化けがないか等を必ず確認するようにしてください。こういったチェックをしやすいように、チェック用のダミーデータを入れておくと良いでしょう。

初期化を要求されてもいきなり応じずに、電源の開放 ( 切断 ) 後、パワーメモリーの差し直しを行って電源を再投入する事を試してみてください。

なおパワーメモリーを刺しっぱなしにしたまま、うっかり拡張 RAM 対応ソフト、拡張 ROM 対応ソフトを起動するとデータを破壊される恐れがありますので、注意してください。


おまけ

端子ではありませんが、メッキが施されていない銅合金製の部品を用いた接点の洗浄について、注意事項を記載しておきます。

接点に油分が付着している場合は、イソプロピルアルコールなどの洗浄液を用いて洗浄すれば事足りますが、表面が酸化している場合は何らかの方法で酸化している部分を取り除く必要があります。

一般的に思いつきそうなのは希塩酸 ( サンポール等 ) へ漬ける方法ですが、pH が低く強酸性ですので、漬けた後にしっかり洗浄 ( というか中和 ) しないと、再び接点が錆びる、ハウジングに用いられている合成樹脂に悪影響が出る、などの可能性があります。

これを考慮すると、接点の洗浄は可能であれば中性の脱錆剤 ( エクスクリーン、中性サビカット、ブラスクリーンなど ) を使用した方が良い、と考えられます。

鉄道模型の界隈では、真鍮製模型の塗装前処理として行う洗浄処理を、車輪からモーター、ライトの間にある集電部品 ( 銅合金製 ) の洗浄に応用した例が公開されていますので、検索してみてください。


おわりに

セガサターンというと、どうにも端子の接触不良がついて回ります。今回の拡張スロットにしろ、映像出力端子にしろ、まったくもって困りものです。


参考文献


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