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工具に関する雑記 電線接続編


もくじ

はじめに

この記事は元々、PC-9821 型番の機種で VFO 付 5.25 型 FDD をファイルベイに増設する配線へ使われている端子に関するメモ書きを作ろうと書き始めたものです。

そのような経緯から「電子部品の調達先に関する雑記」におまけとして掲載予定でしたが、ついでにアレもコレも、と書き足していたら記事が長くなりすぎたため、分割して単独の記事にしました。

記事は五回に分けて公開します。


電線を他の電線もしくは基板へ接続する方法として、電線を直接ハンダ付けする方法も有りますが、後で分解する時の手間を考慮すると電線の先端へ端子を取り付けて接続する方法が良いでしょう。 ( 余談だが、電線の先端へ端子を取り付ける行為を電力分野では「端末処理」と呼びます。 ) 

電線自体の選定については、「ATX 電源の電線についての雑記」を参照して下さい。

端子取付の作業手順は、おおよそ次の様になっています。詳細は端子の種類により異なりますので、納入仕様書 ( データシート ) をよく読みましょう。

端子取付の基本的な作業手順
順序 説明文

1

電線を必要な長さへ切断する為に、直尺などを用いて長さを計測して印を付けます。この時、圧着などの加工で必要な長さや、組立や分解などの作業で必要になる長さを加味して計測します。

2

印を付けた部分を、ニッパーで切断します。

3

切断した電線の先端のうち、端子の圧着で必要になる長さだけ、電線の被覆をワイヤーストリッパで剥きます。

4

圧着端子の場合は、圧着工具を用いて端子のコンタクタ ( 金属製のピンのこと ) を圧着します。

5

この時、端子のハウジング ( ケースの部分 ) を先に電線へ通しておくタイプの場合、必ず圧着前に通してあるか確認しましょう。ハウジングを通し忘れてやり直しになる事がよく有ります。

6

電線と端子、もしくは電線同士をハンダ付けする場合は、熱収縮チューブを併用すると良いでしょう。熱収縮チューブも電線への通し忘れがないか、事前に確かめます。熱収縮チューブを使用しない場合は、最後に絶縁テープで絶縁処理しましょう。

電線へ端子を取り付ける際に用いる工具について、次項以降に記載します。


ニッパー

電線や電子部品のリード  金属製の足の部分 ) の切断に使用します。

ニッパーには、切断できる大きさや硬さの上限が有り、上限を超えた物を切断すると刃こぼれなどの原因になります。カタログや取扱説明書に「切断能力」などと記載されているので、切断対象の物に対して能力が十分か確かめた上で、手持部分が自分の手に馴染む物を選ぶと良いでしょう。

切断した後の断面形状が気になる時は、ニッパーの刃先の断面形状に拘ってみてください。例えば単線の電線を切断する時、両刃のニッパーでは切断面が釘の様に尖った状態となりますが、直角に切断した様な断面にしたい時は片刃のニッパーを使うと手軽に実現できます。

ニッパーを使う際、例えば電子部品のリード線を切断した際にリード線の破片が飛んでいく事が有ります。これを避ける為、破片が飛んでいかない様に切断してしまう部分を人差し指で押さえておく、など対策を行いましょう。


ワイヤーストリッパ

電線の被覆を剥くのに使用します。

ワイヤーストリッパで電線の被覆を剥く時は、電線の太さに適合した工具を選定します。適合しない工具を用いると、芯線に傷が付いたり、千切れてしまいます。千切れてしまうのは論外として、傷が付いた場合、単純に見た目の問題で済めば良いですが、端子周辺が発熱したり、特性が悪化してしまうおそれが有ります。

電線 ( ここでの「電線」とは、絶縁電線とケーブルの総称を指す ) ですが、大きく分けて芯線が単線と撚り線の二種類に分かれています。更に芯線と被覆の間にシールド層 ( 銅やアルミで出来た編組線、もしくはテープ巻きになっている ) が備わっている電線も有ります。

ワイヤーストリッパをよく見ると刃先の部分に導体の太さが刻印されていますが、電線の太さと刻印されているサイズが一致する穴を使うと、電線の芯線を傷つけずに被覆を剥く事が出来ます。

なお、電線の太さの単位は単線の mm や撚り線の mm2 もしくは SQ など以外に、米国の UL 規格に沿った AWG ゲージも有るので、読み間違いをしない様に取扱説明書を確かめましょう。

シールド層が有る場合はカッターナイフやニッパーを用いて、表面の被覆やシールド層を処理してから、芯線に対してワイヤーストリッパを用います。


圧着工具

圧着とは、端子と電線を塑性変形させ電気的・機械的に接続する方法事で、圧着端子のみで電線同士を接続する事も有れば、端子台と組み合わて接続する場合も有ります。

薬剤や加熱が不要なので作業性に優れ、適切に処理すれば電気的な接続性能だけではなく機械的な強度も確保できる、という利点を持っています。

圧着端子は圧着部も含めて裸のものと、圧着部が絶縁被覆付きのものに大別されます。さらに、ねじ留め部分の形状や適用できる電線の違い ( 単線用も有れば、撚り線用もある ) などで種類が分かれています。ねじ止め部分の形状で分類した場合の特徴は、次の通りです。

圧着端子の種類別一覧
種類 説明文

丸形

ねじ止め式の端子台へ適用。端子台のねじを完全に外して取り付けるので手間がかかるが、ねじが緩んだだけでは端子が外れてしまう可能性がないので、安全性に優れる。

Y 形
C 形

ねじ止め式の端子台へ適用。端子台のねじを少し緩めれば隙間へ差し込んで取付出来る為、ねじが行方不明になりにくい、取付手間が丸形よりも抑えやすいなどの利点が有る一方で、ねじが緩んだだけで端子が外れる欠点を有する。

棒形

バネ式の速結端子台のうち、単線専用の端子台へ撚り線を接続する場合に使用。

速結端子台は種類により、単純な機構の単線専用のものと固定用ノッチなどを追加して撚り線も接続可能なものに分かれているが、単線専用のものへ撚り線を接続する場合は棒形端子で疑似的に単線に似た断面形状へ変換してから、速結端子台へ接続する。

余談ですが、官公庁物件では公共建築工事標準仕様書 ( 電気設備工事編 ) により、丸形の圧着端子を適用するのが原則です。また、電力会社の地上用変圧器のように高信頼性を要求される場所では、丸形の亜種のような圧着端子 ( 取付穴が一個ではなく、二個並んでいる ) が指定されている場合も有ります。

圧着端子は、端子の種類や大きさから指定される専用の圧着工具を用いて電線と取り付けます。端子には一見、謎の記号や数字が割り振られていますが、これは適合する電線の太さとねじの呼び径を示しています。詳細はカタログや納入仕様書 ( データシート ) を確認しましょう。

圧着工具を用いる時の注意事項は、製造メーカーの解説記事を参照した方が良いでしょう。参考文献を提示しますので、参照して下さい。

なお、ハンダあげした部分を圧着したり、圧着後にコンタクタのバレル部分 ( 圧着してある部分 ) へハンダを入れる行為は、無意味どころか後から問題が発生する可能性に注意しましょう。

先にハンダあげしてから圧着した場合、電線とコンタクタ間にハンダ層が挟まっている事になりますが、時間の経過と共に応力緩和 ( クリープ ) が発生して緩む、もしくは再結晶化による亀裂 ( クラック ) の発生などで接触不良が懸念されます。

圧着後にバレルへハンダを入れる行為は、塑性域で加工した端子部が熱にさらされた結果、コンタクタ側が変形して緩む、コンタクタのメッキが変化する事による接触不良、芯線にかかる応力に偏りが起きて断線しやすくなる、などが懸念されます。

何れの場合も、可動部で柔らかさを求めて撚り線を使用している場合、無暗にハンダあげすると芯線が何かの拍子に端子部分で折れる可能性も出てきます。よって、圧着端子側でハンダあげしても問題ないと明記されていない限り、ハンダ上げしない事を推奨します。


絶縁テープ

圧着端子とハンダ付けのどちらの場合も、仕上げに絶縁テープで絶縁処理を行う事が有ります。特に、何も処理しないと導体が剥き出しになってしまう場合に熱収縮チューブを用いないのであれば、絶縁テープによる絶縁処理は必須と言えるでしょう。

絶縁テープは、内線規程 1335-7 を準用するなら黒色粘着性ポリエチレン絶縁テープや、ビニルテープを用います。防水性が必要な場合は、自己融着性絶縁テープと保護テープを組み合わせると良いでしょう。

一般的な電線ではなく耐熱電線を接続する場合、導体接続部へポリイミドテープのような耐熱性を有するテープを巻いてから絶縁テープを巻き上げて仕上げると、接続部で耐熱性能が低下してしまう心配が有りません。

各テープの規格は次の通りです。

絶縁テープの種類別一覧
種類 説明文

黒色粘着性ポリエチレン絶縁テープ

規格は JCAA D 004。厚さ約 0.5mm。

ビニルテープ

規格は JIS C 2336。厚さ約 0.2mm。

自己融着性絶縁テープ

規格は JCAA D 005。厚さ約 0.5mm。

保護テープ

規格は JCAA D 010。厚さ約 0.2mm。

テープの巻き方ですが、耐熱性は考慮しなくてよい AC100V 回路を例にすると、先述した内線規程 1335-7 を準用して次の方法と同等以上としましょう。

  • 黒色粘着性ポリエチレン絶縁テープを半幅以上重ねて 1 回以上巻く ( つまり、2 層以上になる様にする ) 
  • ビニルテープを半幅以上重ねて 2 回以上巻く ( つまり、4 層以上になる様にする ) 
  • 自己融着テープを半幅以上重ねて 1 回以上巻いたのち、さらに保護テープを半幅以上重ねて 1 回以上巻く。

防水性能が必要な場合は、自己融着テープを用いた方法を用います。なお、自己融着テープは引っ張りながら巻くので、厚さが最終的に 0.3mm 程度になる前提です。耐熱電線の場合は、参考文献を参照して下さい。

余談ですが、古河電工パワーシステムズ株式会社が製造するエフコテープには 1 号と 2 号が存在しますが、先述した規格に適合するのは 2 号の方です。

1 号の方は 2 号では巻きにくい部分へ補完的に使用するもので、1 号を巻き付けた上へ更に 2 号を巻き付ける必要が有ると、カタログにも注意書きが記載されています。


基板コネクター抜き

基板コネクター抜きとは、その名の通り、基板に刺さっている端子を取り外す為の工具です。

いわゆるレトロ PC などのメンテナンスでは重宝します。これも汎用の圧着工具と同じで、端子の種類により適合品が異なりますので、公式ウェブサイトを参照して確認する様にして下さい。

なお、後述する PH シリーズなどには株式会社エンジニアの SS-10 が適していると思われます。


圧着端子と圧着工具の組み合わせ例

端子と工具の組み合わせの例として、PC-9821 型番の機種で VFO 付 5.25 型 FDD をファイルベイへ増設するためのケーブルで使われている端子を例に挙げます。

先述したケーブルで使われている端子は、日本航空電子工業株式会社の IL-S シリーズや、ヒロセ電機株式会社の DF3 シリーズ、日本圧着端子製造株式会社の PH シリーズが適合します。詳細は工作室の記憶様が公開されている「26/30ピンコネクタと8/12ピンミニコネクタの作り方」という記事を参照してください。

これらの端子に用いる工具は端子製造メーカーの純正品が存在していて、圧着時の品質も純正品の方が理想的なのは言うまでも有りませんが、純正の工具は大抵、入手性の悪さと価格がネックとなるケースが多いと思われます。

そこで汎用の圧着工具を用いる訳ですが、使用できるものの一つとしては株式会社エンジニアの PA-09 や PA-20、PA-21 が有ります。

コンタクタの種類や大きさによって適合品が異なるので、公式ウェブサイトを参照して確認する様にして下さい。


電線同士のハンダ付け接続例

電線同士を直接接続する場合、内線規程 1335-8 を抜粋すると次のような方法が考えられます。なお、ここでは導体が 2mm 以下の電線を接続する事を前提とします。

  • 導体が 2mm 以下かつ、同じサイズの電線の接続では、導体部分を傷つけない様に被覆を剥いた後、導体を 2 回以上より合わせてからハンダ付け
  • 導体が 2mm 以下だが、異径サイズの電線の接続では、導体部分を傷つけない様に被覆を剥いた後、太い方の電線を U 字型に整形したのち、細い方の電線を U 字部分へ 5 回以上巻き付けてからハンダ付け

ハンダ付けが終わったら、熱収縮チューブや絶縁テープで絶縁処理を行いましょう。


参考文献


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