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ATX 電源の電線についての雑記


もくじ

はじめに

ATX 電源で用いられている電線は多くの場合、UL 758 Style 1007 に適合した電線が使用されています。この電線は製造メーカーにより製品名が異なりますが、「機器内配線用ビニル電線」や「耐熱ポリ塩化ビニル絶縁電線」などという名称で呼ばれ、定格許容温度は 80 度、定格許容電圧は 300V です。


許容電流値

以下に許容電流値と導体抵抗の一覧および、電圧降下の計算式を記載しますので、許容電流値を知りたい、機器を増設したいが電圧に問題が生じないか検証したい、と言う方は是非ともご活用ください。

機器内配線用耐熱ビニル電線
性能一覧表 ( ※1 ) 
規格 素線数
 ( 本 ) 
 / 
素線径
 ( mm ) 
導体
外径
 ( mm ) 
仕上
外径
 ( mm ) 
導体抵抗
 ( ohm/km 
以下
at.20 度 ) 
許容
電流
 ( A ) 
※2
※3
AWG28 7/0.127 0.38 1.20 230.0 2.4
AWG26 7/0.16 0.50
( 0.48 )
※4
1.30 141.0 3.2
AWG24 11/0.16 0.60 1.50 89.8
( 91.1 )
※5
4.3
AWG22 17/0.16 0.80
( 0.76 )
※4
1.70 58.1 5.7
AWG20 21/0.18
( 26/0.16 )
※4
1.00
( 0.94 )
※4
1.90 37.2
( 38.3 )
※4
7.0
AWG18 34/0.18
( 41/0.16 )
※7
1.20
( 1.19 )
※7
2.10
( 2.20 )
※6
23.0
( 23.8 )
※7
10.0
AWG16 26/0.26
( 54/0.18 )
※4
1.50 2.40
( 2.50 )
※6
14.2
( 14.3 )
※7
13.0
  • ※1
    国内で UL 規格の電線を製造している主要メーカーを調査し、比較的、安全側の数値を掲載していた品川電線株式会社のカタログ値を引用。ただし、カッコ内を用いるとより確実な計算結果を得られる。
  • ※2
    品川電線株式会社のカタログ値。計算条件は、周囲温度 30 度以下、気中暗きょ 1 条布設。
  • ※3
    設置条件に合わせた許容電流値を知りたい場合は、住友電気工業株式会社が提供している計算ツールを用いて計算後、電線の布設条数 ( 本数 ) に合わせて、許容電流低減率を乗ずると良い。
  • ※4
    カッコ内の数値は、株式会社プロテリアルのカタログ値。
  • ※5
    カッコ内の数値は、住友電気工業株式会社のカタログ値。
  • ※6
    カッコ内の数値は、協和ハーモネット株式会社のカタログ値。
  • ※7
    カッコ内の数値は、平河ヒューテック株式会社のカタログ値。

電圧降下計算の例

電圧降下は、以下の計算式にて算定できます。 ( 基本計算式、直流の場合 ) 

電圧降下の計算式
  • Vd = 2 × I × L × R / 1000

Vd = 電圧降下値 ( A ) 
I = 電流 ( A ) 
L = 亘長 ( m ) 
R = 導体抵抗 ( ohm / km ) 

電圧降下は 2 %以内が目安です。なお、直流時の導体抵抗を自ら算定する場合、以下の計算式にて算定できます。

導体抵抗の計算式
  • R = ( 4 ×10 ˆ 3 / 58 × 3.14 × σ × n × d ˆ 2 ) × ( 1 + S )

σ = 導電率 ( 錫めっき軟銅線で直径 0.26mm 未満の場合は、0.93 ) 
n = 素線数 ( 本 ) 
d = 素線外径 ( mm ) 
S = 撚り込み率 ( 60 本以下の場合は、2% ) 


実際の検討例

次に、実際の許容電流値検討の参考例として「直流で 18W の電力負荷の回路へ電源供給する為に、3.5 インチ FDD で見かけるコネクタと、これに電線として AWG24 を用いるのが適切か否か ? 」を示します。なお、許容電流値の算定において考慮する主な点は、電線およびコネクタの許容電流値、電線の布設方法および条数、周囲温度です。

許容電流値検討の参考例
項目 説明

負荷電流の算定

最初に負荷電流値を算出します。電力負荷が直流 18W で供給電圧が 5V の場合、負荷電流は直流なので 18W / 5V = 3.6A です。

実際には DC - DC コンバータの効率を加味すると、負荷電流の数値は変化すると考えられます。

納入仕様書 ( データシート ) の入手

次に、電線とコネクタのカタログもしくは納入仕様書 ( データシート ) を探します。

今回想定しているコネクタは、正式には「EI コネクタ」と呼ばれる物で、タイコエレクトロニクスジャパン ( 旧 AMP ) の製品です。こちらのカタログを参考に計算します。

基本となる数値の確認

仕様書が集まったら、基本となる許容電流値の数値を決定します。

電線は AWG24 の場合、4.3A ( 周囲温度 30 度 / 気中 1 条布設 ) です。コネクタは許容温度の範囲内かつ、温度上昇が 30 度以内となる範囲で使用します。先ほどのカタログ内に有るグラフから読み取ると、4.2A 程度です。

電線布設条件の確認

上記の許容電流値は気中 1 条布設、もしくはこれと同等の条件の場合の数値です。

筐体内部に布設している電線の場合、筐体内部を換気していれば気中布設と同等と考えて良いですが、密閉している筐体内へ収容したり配管内に通線する場合は、許容電流値の数値は気中布設の数値を低減した数値を採用する必要があります。

電線条数の確認

さらに、条数 ( 本数 ) による低減を忘れては行けません。

AWG 電線の場合はどのような基準を適用するのが適切なのか不明ですが、JCS 0168-2 の電力用ケーブルの基準を参考にすると、4 条の電線を S=d の間隔で ( つまり、電線同士を密着させて ) 布設する場合は、許容電流値は 0.7 倍に低減するので、4.3A × 0.7 = 3.01A となります。

コネクタの場合もカタログを見る限り低減する必要があるようですので、仮に同じ低減を行うと 4.2A × 0.7 = 2.94A となります。

検討結果

検討の結果、負荷電流値に対して最初にあげた電線とコネクタでは許容電流値が不足している事が確認されたので、仕様を変更する必要がある事が分かります。

電線とコネクタの性能が不足している場合、電線およびコネクタのサイズをアップする、同一サイズのまま条数を増やす、などの対処が必要になります。

なお、上記の計算は全て周囲温度が 30 度の場合として計算しました。これが 40 度になる場合は、許容電流値はさらに 0.9 倍する必要が有りますので、ご注意ください。


おわりに

余談ですが、筐体の分解もしくは組立時、電線を筐体に挟んでしまう事が無い様ご注意下さい。絶縁性能が保たれなくなり、短絡もしくは地絡事故発生の原因になります


参考文献


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