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工具に関する雑記 ハンダ付け編


もくじ

はじめに

この記事は元々、PC-9821 型番の機種で VFO 付 5.25 型 FDD をファイルベイに増設する配線へ使われている端子に関するメモ書きを作ろうと書き始めたものです。

そのような経緯から「電子部品の調達先に関する雑記」におまけとして掲載予定でしたが、ついでにアレもコレも、と書き足していたら記事が長くなりすぎたため、分割して単独の記事にしました。

記事は五回に分けて公開します。


電子工作で次に必要な工具と言えば、ハンダ付けを行う為のハンダゴテやコテ台などです。

ハンダ付けは、広義の意味で溶接の一形態です。ここでいう溶接とは、二個以上の母材を熱、圧力またはその両方で一体にする方法の事で、方法により溶加材の有無が異なります。広義の意味での溶接は、融接、圧接、ろう接の三種類に分かれ、そのうち、ろう接の中で温度が 450 度未満で行われるのが、ハンダ付けになります。

余談ですが、融接が一般的に言われるところの狭義の意味での溶接で、重量鉄骨へ行うアーク溶接などがこれに該当します。圧接は接合面に大きな塑性変形を加えて狭義の意味での溶接を行う方法で、鉄筋に対して行うガス圧接などが該当します。

なお、塑性については、FM TOWNS SN の PAD コネクタを交換する ( ミリねじとインチねじの罠 ) を参照して下さい。

ハンダ付けは中学校の技術・家庭科の授業で取り入れられている場合が有るので、大昔に体験した記憶が有る方も居ると思いますが、実は学習指導要領だと必修では無いらしく、省略している学校も有るそうですので全く経験した事がないという方もいらっしゃるかも知れません。また、経験した筈だが忘れたという方もいらっしゃる事でしょう。


ハンダ付け可能な金属

金属なら何でもハンダ付け出来る訳では有りません。錫や銀、銅はハンダ付けしやすいのですが、鋼やステンレス、アルミになると困難です。

ステンレスやアルミへのハンダ付けは絶対に不可能という訳では有りませんが、専用のハンダとフラックスを組み合わせて作業する必要が有ります。また、それらを以てしてもステンレスやアルミでも合金の種類によってはハンダ付け出来ない、ハンダ付け出来ても強度的に劣る、という制限が有る様です。


基本的な作業手順

ここで、ハンダ付けの基本的な作業手順をおさらいしておきましょう。全て手作業によるハンダ付けを前提に記載していいます。

ハンダ付けの基本的な作業手順
順序 説明文

1

まずはハンダ付けの下準備として、作業台の上へ耐熱性の有るハンダ付け用のマットを敷きます。

2

ハンダコテへコテ先を装着し、コテ台と共に安置します。その際、ハンダコテから伸びる電線が作業の邪魔になったり、コテ先にぶつかったりしない様、向きを考えて安置しましょう。

3

糸ハンダを準備します。糸ハンダは用途や部材毎に適応できる種類が異なるので、作業内容に合わせて適切なものを選定します。

4

電子部品のハンダ付けを行う場合、特に素子そのものが熱に弱い部品をハンダ付けする場合は、部品へヒートクリップを装着して部品本体が直接熱に晒されない様に気を付けましょう。

熱硬化型樹脂パッケージの半導体の場合、樹脂と金属との熱膨張の違いが影響してパッケージが部分的に欠ける可能性が有る事にも注意が必要です。

5

放熱板付の電子部品、例えば電界効果トランジスタ ( FET ) の様な熱容量が大きい部品をハンダ付けする場合、未対策だとハンダが上手く溶けなくて接合出来ない場合が有ります。

ハンダを溶かす為だからと、安易にコテ先の温度を高めに設定したりコテ先を長時間当て続けたりするのは、内部素子を熱膨張の影響で壊してしまう可能性が有るので、勧められません。

この様な時は、部品をプリヒータなどで適切に予備加熱させてから作業すると、壊さずに済みます。

6

電子部品のうち、特に小さな面実装型の部品をハンダ付けする場合、部品はピンセットで保持しながらハンダ付けしても問題ありませんが、専用のソルダーアシストツールを用いた方が作業性が良くなります。

7

大きな金属板同士をハンダ付けするような場合は、必要な個所へフラックスを塗布してからハンダ付けします。電子部品の場合、フラックス含有のハンダを用いればフラックスを塗布しなくても十分に対応可能です。

8

ハンダ付け時のコテ先の熱でフラックスが蒸発して煙が出ますが、この煙にはハロゲン化物が含まれており、人体への影響が指摘されています。

その為、ハンダ付けしている作業机周辺の局所換気を行う、吸煙器を用いて空気清浄を行う、など対応するのが望ましいでしょう。

なお、フラックスはハロゲンフリー仕様も有るので、そちらを使用する事も考えられます。

9

最後にハンダ付けしたい部材まで準備したら、ハンダコテの電源を投入してコテ先の温度が適切な温度 ( 一般的に、鉛入りの有鉛ハンダの場合は 330 度程度、鉛が入っていない無鉛ハンダの場合は 370 度程度、ハンダ自体の仕様により異なる ) へ上昇するまで、その場で待機します。

10

コテ先の温度が必要温度へ達したら、ハンダ付け開始直前にハンダコテを利き手で、糸ハンダを反対側の手で持って、コテ先をコテ台のクリーナーで軽く掃除してから、直ぐにコテ先へハンダを馴染ませます。

ハンダコテをコテ台から持ち上げる時、よそ見しながら持とうとするのは火傷など事故の元ですから、絶対にやめましょう。

11

コテ先へハンダを馴染ませようよしてもコテ先が酸化していてハンダを弾いてしまう場合、コテ先の保守用品を用いてハンダの濡れ性 ( ハンダが馴染む性能 ) を再生させる必要が有ります。詳細な方法は別に記載します。

12

ハンダ付け用の端子と電線をハンダ付けするような場合、手順として端子と電線の加工から簡易的な接続まで全て済ませてからハンダ付けした方が良い場合と、端子と電線へハンダを馴染ませる ( これを予備ハンダと呼ぶ ) 方が良い場合に大別されます。詳細は参考文献を参照した方が良いでしょう。

なお、電線をハンダ付けする時は、圧着端子の項目に記載している内容を参考に下準備 ( 例えば、電線の被覆を剥く ) が必要になります。

13

ハンダ付けしたい部材へコテ先を当てて予熱してから、ハンダを添えてハンダ付けを行います。ハンダコテの先端は、ハンダ付けしたい部材に短時間で熱を伝えられるよう、コテ先を当てる角度を調整すると良いでしょう。

角度を調整してもハンダが溶けにくい、流れにくいと感じたら、臨機応変にコテ先温度の調整を行う方法も考えられます。

14

ハンダ付けが終わったらハンダコテをコテ台に置き、ハンダ付けした部分を観察します。コテ台へハンダコテを置く時は、ハンダコテから伸びる電線を挟まない様に気を付けましょう。

ハンダ付けした部分を観察してみて、部材同士を接合出来ていて、かつ、断面が富士山の様な形で表面も艶が有って滑らかならば、ハンダ付けは成功しています。俗にいうイモハンダやブリッジなどを起こしている場合は、修正します。外観の良否については、参考文献を参照した方が分かりやすいでしょう。

15

部材を取り付けるのではなく取り外したい、もしくはハンダ付けを修正したい場合は、ハンダ吸い取り線やハンダ吸い取り器を用いてハンダを除去します。

16

ハンダ付け時、必要以上に長時間コテ先に触れさせて加熱し続ける事は避けましょう。

先述した様に部品が壊れる以外にも、基板のパターンを剥がす、ハンダが酸化して作業しにくくなるなったり品質が悪くなるなど、問題が生じるだけで利点は有りません。

17

ハンダ付けが終わったら、コテ先にハンダを馴染ませてから電源を切って、コテ先が十分冷めるまで待機して、片付けましょう。

18

使用したフラックスが洗浄タイプの場合は、ハンダ付け後なるべく早く洗浄しましょう。洗浄が必要なフラックスは金属を腐食させる効果が有る為、放置すると金属表面が腐食してしまいます。

電源切り忘れによる火災防止の為、一定時間後にタイマーで強制的に電源を切る、指差喚呼による確認の徹底などを習慣づけて下さい。

電子部品のハンダ付け時、パッケージとリード線の隙間から侵入した湿気を放置して作業すると、部品の故障を招く事が有ります。出来るだけ、納入仕様書 ( データシート ) に記載された保管条件を遵守する、やむを得ない場合は何らかの方法で乾燥させる、などの対策を考えた方がより良いでしょう。

ハンダ付けに用いる工具類に関して、詳細を次項に記載します。なお、記載の順番は先述した作業手順で登場した順番とします。


ハンダ付け用マット

電子部品のハンダ付けを行う時は、耐熱性が有り、かつ、静電気対策 ( ESD 対策 ) の機能を併せ持つマットを使用するのが理想的です。

マットを敷かなくても作業自体は出来ますが、ヤケドやボヤ騒ぎ、火災などの事故を起こす危険性も有るので、出来るだけ用意したいところですね。


ハンダコテ

ハンダコテは、ニクロムヒーターとセラミックヒーターの二種類に大別されます。

ニクロムヒーターは熱容量が大きいのでコテ先が暖まるまで時間がかかるものの、板金のハンダ付けに向いています。セラミックヒーターは暖まるのが早くて絶縁性が優れているので、電子部品のハンダ付けに向いています。一般に、セラミックヒーターの方が小型で作業性が良いとされます。

ハンダコテは消費電力が大きくなるほど、コテ先の温度を高い状態で維持しやすい傾向が有ります。電子工作の場合、電子部品相手なら 20W から 30W、変圧器など大型の部品や基板のうち広大なベタパターンが相手の場合は 40W から 60W 程度を基本として選定します。

板金なら 80W 以上のハンダコテとし、コテ先も太いものを準備します。電子工作なら、セラミックヒーターで温度調節機能付のハンダコテを選定するとより良いでしょう。

なお、表面実装型でピン数が多い電子部品を取り外したい場合は、ハンダコテではなくヒートガンの導入も考えられます。


コテ先

コテ先は本来、ハンダ付けする部材の形状や面積に応じて選ぶものですが、最初はハンダコテ購入時の付属品を使ってみて、扱いにくければ他の形状を試しに買ってみると良いでしょう。

コテ先は、ハンダ付けをしていると僅かずつですが消耗して行きますので、交換時期が来る前に予備品を購入する様に心掛けたいところです。

後述する糸ハンダは色々な種類が有りますが、異なる種類のハンダを同じコテ先で扱うと意図しない成分の混入によってハンダ付け時の不良や信頼性の問題が生じるので、ハンダの種類毎にコテ先を分けた方が無難です。

コテ先の形状ですが、個人的には C 型と呼ばれる円筒を斜めに切断したような形状のうち、2C 型という先端が直径 2mm のコテ先を主に使用していて、B 型や I 型 ( 円錐型で鉛筆の先端の様な形状 ) の様な先端が細いコテ先を、ハンダブリッジの修正で用いる事が有ります。

表面実装電解コンデンサなどの場合、コテ先は二股に分かれたものを用意するのが正当な方法ですが、応急的な方法として圧着端子をコテ先として代用する方法を、び・びっと様が提唱されています。 ( 令和二年 7 月 21 日の投稿 ) 


コテ台

コテ台は、ハンダコテ側で指定が有る場合は指定品を使用しましょう。

特に指定がない場合は、コテを置いた時に台が倒れたり転がったりしない様、コテ台はある程度の重さが有って、ハンダコテを置いた時に発熱する部分が覆われる仕様のものが安心です。

コテ台に付属するコテ先のクリーナーは、スポンジ式とワイヤー式 ( 金属タワシみたいなヤツ ) の二種類が有ります。

スポンジ式はコテ先を傷めずにハンダをきれいに除去できますが、温度が下がりやすく、ハンダの酸化が促進しやすい欠点が有ります。ワイヤー式はスポンジ式の逆と考えて良いですが、コテ先をタワシで磨くのと同じですので、どうしてもコテ先の摩耗が早くなりがちです。


ハンダ

ハンダは対象の材料に合わせて種類が分かれており、種類毎に成分の組み合わせや割合が異なっていて、ハンダ自体の細かい分類は JIS Z 3282、後述するフラックスが混入してあるハンダ ( いわゆるヤニ入りハンダ ) は JIS Z 3283 に記載されています。 ( この項目は、糸ハンダを前提とします ) 

ハンダは、昔ながらの鉛を含有する鉛含有ハンダと鉛フリーハンダに大別されています。どちらのハンダも固体から液体へ変わる温度帯の違いにより、低温から、中温、高温のような中分類があり、更に化学成分の割合によりいくつもの小分類に分かれています。

錫の含有量によりハンダの融点が変化する為、作業内容に合わせた糸ハンダを準備する必要が有ります。一般に、Sn-Pb 系と呼ばれる中でも化学成分の含有割合として錫が 63%、鉛が 37% の糸ハンダは共晶ハンダと呼ばれ、ハンダ付けとしての信頼性が高く、初心者でも扱いやすい事から、現在でも使用されています。

Sn-Pb-Bi 系でビスマス、カドミウム、インジウムが含まれるハンダは低温ハンダなどと呼ばれ、熱に弱い部品へ使われる。また、表面実装の電子部品を取り外す時のキットでも、低温ハンダが付属しています。

Sn-Pb-Ag 系で化学成分の含有割合が鉛 95% の糸ハンダは高温ハンダなどと呼ばれ、柔らかい特性から熱応力に強いとされています。

以上は鉛含有ハンダの解説ですが、鉛フリーハンダも鉛含有はんだと同じように、低温から高温まで種類が分かれています。

ハンダは特に事情がなければ、電子工作なら共晶ハンダを、板金の場合は錫と鉛が50% ずつ入っているハンダを基本にして選定すると良いと考えられます。但し、ステンレスやアルミの様なものはヤニなしハンダとフラックスをそれぞれ特殊な専用品を用いて作業する事になると思われますので、製造メーカーのカタログ等を調べてみて下さい。

鉛フリーはんだを用いた場合、

  • 人体への毒性や、廃棄物からの溶出により土壌や水源などが汚染される懸念が有る、鉛の使用量を抑制できる。
  • 共晶ハンダと比較して、ハンダの弾性係数 ( ヤング係数 ) が高い傾向にあり、材料強度そのもの ( 引張強度や剪断強度 ) は有利。
  • 耐疲労性も優れている傾向にある。

の様な利点が有ります。一方で、

  • 弾性係数が高い傾向に有るので、電子部品や基板に対して許容値を超える応力が加わると伸びしろがないので直ぐに破損する、長期的な熱応力などへの懸念が有る。
  • はんだの拡がりが悪い ( 作業性が悪い ) 
  • 融点が高いので、特に電子部品を熱で破損、または劣化させやすい。コテ先の酸化や消耗の速度も速い。
  • 銅への侵食によるトラブルが懸念される。
  • ウイスカ現象によるトラブルが懸念される。
  • 積層セラミックコンデンサと Sn-Zn 系ハンダを組み合わせると、絶縁抵抗が低下する。
  • インジウムを多く含む系統のハンダも存在するが、インジウム自体の安全性に疑問が有る。また、レアメタルである。

の様な不利な点も有ります。

インジウムは、かつては安全な物質と考えられていたものの、現在では肺疾患を引き起こす物質として厚生労働省から技術指針が出されている点や、主に亜鉛の精錬過程で生じる副産物として生産される事から、主産物の生産量により左右される側面が有る点は注目すべき点でしょう。

いずれにしろ、鉛フリーハンダは融点が高い点を考慮すると、ハンダ付けに関して相応の技量を持つ人が扱った方が良いと思われます。

なお、鉛フリーという名前のおかげで勘違いしやすいですが、RoHS 指令では 1000ppm まで、JIS Z 3282 では 0.07質量 % まで、鉛の混入が許容されています。これは、錫の鉱石に鉛が含まれる事、鉛の完全除去が難しい事が理由とされています。

平成十二年頃よりも以前に製造された電子機器 ( 例えば、いわゆるレトロ PC ) の保守を行う場合、元々が鉛含有ハンダになっています。コテ先の項目で先述した様に、異なるハンダを混ぜると信頼性で問題が生じるので、こういう場面では鉛フリーはんだは使用しない方が無難でしょう。平成十二年頃よりも後になると、製造メーカーや製造時期などで異なるので、一概に「これなら問題ない」とは言えません。

どの系統の糸ハンダを使用するのか決めたら、次にフラックス含有の有無、糸ハンダの線径がどの程度のものを使用するのか、決めましょう。

電子工作用の糸ハンダは基本的にフラックス含有のもので、後述するフラックスのうち樹脂系のロジン入りで、R または RMA 仕様のものが扱いやすいと考えられます。

板金工作用の糸ハンダはヤニ入りとヤニなしの物が有ります。ステンレスやアルミの様なものは特殊な専用のハンダを用いる事は先述しましたが、フラックスについても専用品を用いて作業する事になると思われます。

糸ハンダのサイズですが、電子工作のうち表面実装型の部品には直径 0.6mm から 0.8mm、リード線の部品には直径 0.8mm から 1.0mm、電線には 1.0mm から 1.2mm、板金は 1.2mm 以上が目安となります。

ヤニ入りのハンダは開封後、出来るだけ一年以内に使い切る事が望ましい事から、購入時は消費速度も考慮しながら購入しましょう。


ヒートクリップ

ヒートクリップは、熱で壊れやすい部品を仮に挟んで放熱を助ける道具で、形状は部品に合わせていくつかあります。

ゲルマニウムダイオードの様に、特に熱に弱い部品をハンダ付けする時は準備した方が良いでしょう。


プリヒータ

プリヒータは、基板や電子部品をハンダ付けしやすくする為の予備加熱に使用します。

大別して熱風型と赤外線ヒーター型に分かれており、製品により設定可能な温度や加熱範囲の調整方法などが異なり、熱風型は主に局所加熱や小型基板の加熱、赤外線ヒーター型はデスクトップ PC で使用するマザーボード程度の大きさの基板を加熱するのに向いています。

プリヒートする時の適切な温度は、対象となる基板や電子部品により異なり、納入仕様書 ( データシート ) で「100 度から 120 度で 120 秒から 300 秒」や「上限 125 度、120 秒以内」などと条件が記載されている事が有るので、確認してから作業しましょう。


ソルダーアシストツール

ソルダーアシストツールは、特に抵抗やダイオードの様に特に細かい電子部品をハンダ付けする際に、部品を仮押さえしておく為の道具です。

ピンセットでも代用出来ますが、先端でうっかり弾き飛ばしてしまって部品が行方不明になる事故が発生しがちな事を考慮すると、ソルダーアシストツールの方が便利です。


フラックス

フラックスは次の様な効果が有り、見た目だけではなく、ハンダ付け部分の性能に影響を与えます。

  • 溶けたハンダの表面張力を低下させて、濡れ性を向上させる。
  • 母材でハンダ付けする部分の酸化膜を除去し、ハンダ付け接合部を活性化させる事で合金層の形成を手助けする。
  • ハンダコテで熱している間の、ハンダ再酸化を防止する。

フラックスは、JIS Z 3197 によると大きく分けて次の三種類が有ります。

フラックスの種類別一覧
種類 説明文

樹脂系

主剤がロジン ( 松ヤニ ) など樹脂質、溶媒が有機溶剤のフラックス。

有機系

主剤が有機酸及び有機系活性剤、溶媒が水系又は有機溶剤のフラックス。

無機系

主剤が無機酸及び無機塩基、溶媒が水溶性又は非水溶性物質のフラックス。

それぞれの分類の中でさらに細かく分類されていて、例えば、樹脂系の中でもロジンと合成樹脂系に分かれる他、それ以外にも活性剤やふっ化物含有の有無、ペンまたはハケ付きの小瓶入りの液状や固形、缶入りのペーストなど形状の違いが有ります。

電子部品のハンダ付けでは、一般に樹脂系のうちロジンが主剤のフラックスを用います。ロジンを含むフラックスは、次の様な分類がなされている様です。

ロジンを含むフラックスの種類別一覧
種類 説明文

R

非活性ロジン系、活性材を含まない。洗浄しなくてもよい。

RMA

弱活性ロジン系、塩素分 0.14 重量 % 未満、洗浄した方がよい。

RA

活性ロジン系、塩素分 1.0 重量 % 未満、母材を溶かすので洗浄が必須。

作業手順の項目で触れましたが、ハンダは種類により適切な温度が異なります。フラックスもハンダの種類や作業時の温度に合わせて種類が分かれており、ハンダと適切な組み合わせで用いないと上手くハンダ付け出来ない事が有るので注意しましょう。

無洗浄タイプのフラックスでも、やたら大量に塗る事は避けた方が無難です。また、電子機器使用時の周囲の温度や湿度が高く過酷な環境で用いる、使用電圧が高い、もしくは焦げ付きが有る場合で、高信頼性を求めるならば洗浄した方が良いとされています。これは、フラックスの残渣 ( カス ) が有ると湿気が取り込まれ、絶縁不良を招く可能性が有る、という理由によるものです。

なおフラックスは開封後、成分の酸化や揮発などの影響で活性力が低下する為、製造メーカーでは使用開始から一年以内を目途に使い切る、などを推奨している事は、ハンダの項目で触れた通りです。


吸煙器

ハンダ付け時にフラックスが蒸発した煙に、ハロゲン化物が含まれていて人体への影響が指摘されている事は先述しましたが、煙を少しでも遠ざける道具として吸煙器が有ります。

製品としては床置きで HEPA フィルターを用いる仕様、卓上で簡易的な活性炭フィルターを用いる仕様に大別されます。よほどの事がなければ卓上型で十分でしょう。

吸煙器の代わりに、壁付の換気扇もしくは天井扇で排気する場所の直下で作業する、もしくは、作業机に軸流ファンを設けて窓までのダクトも自作し、使用時に窓を開けて軸流ファンを稼働させる、という方法を用いる方も居ます。

既製品の吸煙器ではなく自作した道具で対応する場合の為に、換気計算の参考例を参考文献に提示します。算定基準は人員や床面積、発熱量など様々な考え方が有りますが、喫煙場所の算定基準が最も近いと考えられます。

なお、P-Q 線図で記載されている静圧は、50Pa 以下となる様に給気口を設ける、換気時は窓を開けるなど対策を行いましょう。これよりも数値を高くなると、計算通りの風量が出ない、扉の開閉に不具合が出る等の支障が発生します。


コテ先の保守用品

コテ先の保守用品としては、大別してペースト状の薬剤 ( 製造メーカーにより、こて先復活剤やチップリフレッサー等と呼称 ) と、金属製のブラシや消しゴムのような製品 ( チップリカバリー ) が有ります。

薬剤は、コテ先に付着した酸化物を除去や還元する事で、コテ先の濡れ性を再生させる仕組みです。薬剤で再生しきれない場合は、金属製のブラシや消しゴムのような製品で表面を軽く擦る事でこびりついている酸化物を除去します。

薬剤は腐食性が有るので、使用後にコテ先クリーナーなどで綺麗に取り除く必要が有ります。また、金属製のブラシや消しゴムの様な製品は、使用方法を誤るとコテ先の表面に細かい傷が付く可能性が有るので、取扱説明書をよく確認しましょう。


ハンダ吸い取り線、ハンダ吸い取り器

ハンダを除去したい場合、面実装の場合はハンダ吸い取り線、スルーホールの場合はハンダ吸い取り器を用いると良いでしょう。

ハンダ吸い取り線は、ハンダ付け部分よりも一回り大きい線径を選定します。そうしないと、ハンダを上手に吸い取り切れません。使用する前に、酸化している部分を切断しておく事を推奨します。酸化している部分はハンダを吸い取る能力が落ちている為です。なお切断する時、先端の角度を 45 度にすると熱伝導が良くなって扱いやすくなります。

ハンダ吸い取り器は取り除いたハンダが詰まる事が有るので、取扱説明書に記載されている通りに清掃や保守を行いましょう。そうしないと、肝心な時にハンダが詰まって使い物になりません。

ハンダを吸い取る時はハンダコテを出来るだけ寝かせて出来るだけ熱が伝わりやすくし、ハンダを吸い取ったらコテ先とハンダ吸い取り線やハンダ吸い取り器を同時に離します。

液漏れしている電解コンデンサや電池を除去する場合は、ハンダゴテを使う前にハンダ付けで固定されている部分から先の部分を全て撤去して、出来る限り液体や乾燥した結晶を除去してから、ハンダゴテで残っている足の先端を取り除く方が良いでしょう。

液体や乾燥した結晶が残ったままハンダコテで熱すると、焦げ付きが発生する上に、僅かですが身体に悪影響が有る蒸気が発生してしまいます。


フラックスリムーバ

フラックスリムーバは、フラックスを洗い流す為の溶剤で、洗浄したい部分へ塗ってから紙ウエスで拭き取ります。中々落ちない場合は、ハケやブラシを併用しても良いでしょう。

スプレーの製品と小瓶入の製品が有るので、使う面積を考慮して購入すると便利です。アルコールが添加されているので、換気や火災防止に気を付けましょう。


その他

ハンダ付けをしている際に、基板のパターンを断線させてしまった、もしくは表面のソルダーレジスト ( 基板の表面を保護するもの。日本国内では目視検査のしやすさを考慮して、緑色としている事が多いらしい ) を傷つけてしまった、という場合は、導電性インクの補修ペンでパターンを繋ぎ直す、ソルダーレジスト補修材で傷の部分を埋める、などの方法で補修すると良いでしょう。


参考文献


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