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PC-9821 Ap2 の修理記録


もくじ

はじめに

だいぶ前の事になりますが、電源は入るがピポらない ( メモリチェック画面が出ないどころか、起動時のピポ音も出ない ) という PC-9821 Ap2 / M2 を、部品取りのつもりで入手しました。主な目的は、内蔵の薄型 5.25 型 FDD である FD1158C でした。

分解してみると、マザーボードは一部のスルーホール周辺で断線している痕跡が見受けられ、また、CPU も抜き取られているのが判明しました。

正常動作品を所有していれば比較しながら修理する事が可能ですが、動作の詳細が不明なカスタム LSI が存在していて、かつ、正常に稼働する時の状態さえよく分からず、何なら電源の LED さえ光らないという個体だけ観察しながら修理するのは、この記事の執筆者の技量では困難と判断しました。

通常であれば使えそうなものだけ剥ぎ取って処分するところですが、マザーボードの状態そのものはかなり良いので、情報さえ集まれば修理できる可能性も有ると考え、とりあえず保管する事にしました。

入手から数年後、あるウェブサイトで Ap2 のマザーボードを修理したという記事を偶然発見します。 ( 見かけた記事の詳細は、参考文献参照 ) 

その記事では、マザーボードの表面を削って内部パターンを露出させた画像を掲載しており、これなら簡単に調べられるぞ、よし、手持ちの Ap2 を試しに修理してみよう、失敗しても FD1158C が確保出来ているので問題なし、と考えて、軽い気持ちで挑戦してみました。

怪しいと判断した個所を数日かけて状態を確認し、断線している箇所へジャンパ線を飛ばして繋いだところ、ついうっかりピポらせる ( 正常起動させる ) 事に成功してしまいました。

この記事は、Ap2 をついうっかりピポらせて、さらに整備した際の記録です。


改修前

最初に分解した時の様子を以下に示します。

なお修理を行う際、いきなりニッパーやハンダコテによる作業を行う事は勧められません。手始めに作業開始前の状態が分かる様に写真を撮影し、テスターで導通状態を確かめて記録に残してから、具体的な作業手順を考えていきます。

この様にする事で、修理しようとして元の状態が分からなくなったり、更に悪化させてしまう状況を避ける事が出来ます。今回も写真撮影を撮影しつつ写真を拡大しながらテスターで導通を確認する作業を、数日かけて行いました。

修理記録 ( 改修前 ) 
参考写真 説明文

参考写真-1

マザーボード全体の様子です。 ( 画像下側が前面側 ) 

この状態へ至るまでに、筐体の上部から電源、拡張ボードや HDD、FDD などを接続する為のライザーカード、CPU ボード、それらを固定する金属製の籠などを片っ端から外していく必要が有ります。

参考写真-2

一枚目の写真で中央から少し左下の部分に有る、水晶発振器付近の拡大写真です。

製造ロットによっては水晶発振器の傍に有る 74F245 へタンタルコンデンサが追加されていますが、一説によるとマザーボードとの間に挟まっている絶縁テープの様なものが、経年劣化もしくは吸湿により、基板を腐食させる事が多発しているといいます。

入手した個体も、テープが基板の銅箔などを腐食させている気配が有ります。

参考写真-3

一枚目の写真で右上部分部分に有る、RTC 用バックアップ電池 ( VL2330 ) 付近の拡大写真です。

このマザーボードは一見、電解コンデンサの電解液の漏れが無い様に見えますが、一部、液漏れしているのがはっきり分かる状態です。

例えばこの写真では、最も右側に並んでいる電解コンデンサからの液漏れにより、µPD71065G ( FDD の VFO チップ ) の足まで滲んでいる様子が分かります。


テープの除去

続いて、修理に入ります。

修理を始めるにあたり、今回の中で一番重症かつマザーボードの劣化の進行が一番早いと思われる、水晶発振器周辺から作業を開始しました。

修理記録 ( テープの除去 ) 
参考写真 説明文

参考写真-4

手始めに、マザーボードとテープ、タンタルコンデンサをそれぞれ分離しているところ。

タンタルコンデンサやテープを剥がす際、いきなりマイナスドライバーで抉る様な方法は勧められません。

基板が傷つかないよう、合成樹脂製や木製で先端を薄く加工したヘラ状の道具を用いて、少しずつ剥がしつつ、基板洗浄剤なども併用してカスを拭き取りながら作業すると良いでしょう。

参考写真-5

テープとタンタルコンデンサを除去し終わったところ。理由は不明ですが、水晶発振器はテープと直接接触していた訳ではないのに腐食して赤錆が発生しています。

テープを除去してから基板の導通を再確認したところ、事前の調査で怪しいと判定していた部分が断線している事が判明しました。

参考写真-6

補修が完了したところ。

断線したパターンのジャンパには、ジュンフロン線を用いました。執筆者の場合、ジュンフロン線は次のような手順で加工を行っています。

  • 必要長さよりも多少長めに切断
  • ワイヤーストリッパで、片方だけ被覆を剥く
  • 現物で調整しながら曲げ加工を行う
  • 必要長さに合わせて、もう片方の切断と被覆の処理
  • ジュンフロン線の両端をハンダ付け

なお、複数のジュンフロン線を配線する場合は、最初に配線の順番を考えてから配線した方が、結果的にジュンフロン線の交差部分などの加工手間を抑えつつ綺麗に配線出来ます。

水晶発振器の「6H」のシルク印刷脇でも断線していましたが、これについてもジュンフロン線でマザーボード裏側へジャンパを飛ばしています。非常に外れやすい為、ハンダ付け後にカプトンテープで固定しています。


電解コンデンサの交換

先述したテープの除去とこれに伴う補修を行った後、偶然にも某リサイクルショップで入手したIntel i486DX2 66MHz ( 純正と同一、但しピンが曲がっていたので修正 ) を CPU ボードへ取り付けつつ、マザーボードを可能な範囲で清掃して仮組みして起動試験を行いました。

そうしたら、あっさりとピポってメモリカウントまで走ってしまったでは有りませんか。

そう簡単に復旧しないだろうと思っていただけに、ピポったとなれば本格的に復旧せねば、という事で慌てて電解コンデンサを注文しました。なお、慌てて注文すると数量を間違えて大量に余る事が有りますので、気を付けましょう。 ( 経験者は語る ) 

なお、電解コンデンサの交換方法の詳細は「FM TOWNS SN のアルミ電解コンデンサを交換する」を参照して下さい。

修理記録 ( 電解コンデンサの交換 ) 
参考写真 説明文

参考写真-7

電解コンデンサを試しに外したところ。

一見、電解コンデンサの液漏れが無い様に見えますが、製造時期的には悪名高き四級塩電解コンデンサが使われている可能性が高いので、油断は大敵です。

参考写真-8

外した電解コンデンサを試しに裏返したところ。

マザーボードのハンダ付け部分を含め綺麗に見えても、電解コンデンサの裏側には緑色の結晶らしきものがしっかり付着しており、液漏れしている事はほぼ確定です。

参考写真-9

綿棒へ洗浄液 ( アルコール ) を軽く浸してマザーボードを拭ってみたところ、綿棒が想像以上に緑色へ変色しました。

あくまでも想像になりますが、液漏れが始まってから今回の交換までそこまで時間が経過しておらず、液漏れはそこそこ激しいがマザーボードの腐食は限定的にしか起きていない、という幸運な状態だった可能性が有ります。

今回の事から、保守点検は時期を逃さず適切に行う事の重要性が分かります。

交換用に注文した電解コンデンサの到着後、既存の電解コンデンサの除去と本格的な洗浄、電解コンデンサの交換を行いました。


電源ランプ

今回の個体の場合、入手時点では筐体前面にある LED の電源ランプが点灯しませんでした

マザーボードのどこかが故障しているのかと思いましたが、LED を取り付けている小基板に対して、まずは基本中の基本と言えるハンダ付け部分の再ハンダを行ったところ、これもあっさりと点灯する様になったでは有りませんか。

慌てて変に弄り回すよりも、まずは基本に忠実な作業を心掛けた方が良い、という見本のような出来事でした。


筐体の錆

ここまでくれば、筐体の錆も補修したくなります

Ap2 に限らず、家電製品全般の金属製筐体はメッキを施されている事が多いので、何も考えずに塗装してもあまり良い結果は得られないと思われます。

今回は「常温亜鉛メッキを行うの巻」でも記載している通りの方法を用いて、下地処理と再メッキを行いました


完成

結果として、想定よりは少ない工数で Ap2 を復活させる事が出来ました

今回はとにかく、マザーボードが一部腐食している程度で断線があまり無かった事、断線箇所も一目で怪しいブロックが分かった事が復旧に繋がりました。

スルーホールやハンダ部分の「見た目は大丈夫そうだけど断線してる」はある意味、定番ネタとも言えるので、この様な事項も軽視せずに調査した方が良いでしょう。

最後に参考として、マザーボードと電源ユニットに実装されている電解コンデンサの種類と数量を記載した、一覧表の表計算ソフト用データを公開します。製造時期やロットにより異なる事が考えられますので、必ずご自分で現物を確かめてから部品の発注と交換を行ってください。

電解コンデンサの数量調書一覧表

PC-9821 Ap2 の数量調書 ( Excel形式 ) 


参考文献


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