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This web site is only compatible with Japanese text. 空調設備に関する雑記
はじめに夏になると、巷では空調機による冷房時の設定温度について意見が交わされますが、その中には「28 度という温度は、何ら根拠がない」という意見が見受けられます。 その意見の詳細を読むと、多くは「法律に書かれているのみで、何の背景もない」と断定している事が多い様に思われます。しかし残念ながら、何の背景もないと断定するのは些か誤りが有ると言ってよいでしょう。 今回は空調設備として検討する事項の中から、多くの方が気にするであろう設定温度と空調機の維持管理の観点を、一部抜き出して解説していきます。 クラシック PC を稼働させる時や、フロッピーディスクのような磁気媒体、CD-ROM のような光学媒体の事を考えても温度などの管理は重要と言えますので、空調機の選定や設置場所を検討する時の参考として下さい。 設定温度設定温度ですが、メーカーで空調機の性能測定を JIS B 8616 : 2015 により行う時は、冷房時は室内側 27 度 DB / 19 度 WB、室外側 35 度 DB、暖房時は室内側 20 度 DB、室外側 7 度 DB / 6 度 WB としていて、この場合はそれぞれ冷房 27 度、暖房 20 度に設定して試験を行っています。 一方、建築設備の設計としては、一般的な居室の場合だと冷房は 26 度から 28 度、暖房は 20 度から 22 度を基準に、室の用途や実態に合わせて室内温度を決定して空調に関わる計算、選定を行う事が多いのではないかと思われます。 余談ですが、冷房時の 26 度という数値は ASHRAE ( 米国暖房冷凍空調学会 ) の前身にあたる ASHVE ( 米国暖房換気学会 ) が戦前に公開した文献が元になっています。 設定温度は先述した温度が一つの目安になりますが、クラシック PC の本体や媒体などの周囲温度 ( 室内温度 ) は 29 度以下、出来れば 24 度以下とするのが目安になります。詳細は「よくある質問」に記載している資料にて解説していますので、参照して下さい。 さて、本題と言えるクールビズで見かける 28 度という数値について、法律の条文を引用しているだけで何ら根拠がない等の意見を見かけますが、実際には、戦前から戦後にかけて発表された C.P.Yaglou 氏らの研究が有ります。 さらに戦後になって「ビルディングの環境衛生基準に関する研究」が発表されましたが、この中で、許容できる温度は 17 度から 28 度とされており、これが結果的に「室温の上限としての目安」である 28 度という数値に繋がっていると考えられています。 以上が設定温度の話です。空調機による冷房時の設定温度を語る記事では、大抵この辺りで話が終わってしまっていますが、快適さを求めるのであれば、他にも湿度や気流、着衣量なども総合的に検討するのが本来の形です。次項にて解説します。 温熱環境温熱環境を表す要素として、次の要素が有ります。
「環境」だけで「温熱四要素」、全て合わせて「温熱六要素」と呼びます。 放射とは物体から電磁波 ( その中でも赤外線 ) によって人体に伝わる熱のことで、直射日光が分かりやすいのですが、熱を持った壁や天井から伝わる熱も有ります。 代謝量は運動や作業を行うことによって人間が発するエネルギーの事で、「met」という単位で表します。着衣量は着衣の断熱性能の事で、「clo」という単位で表します。 1920 年代前半以降、C.P.Yaglou 氏や F.C.Houghton 氏、A.P.Gagge 氏、P.O.Fanger 氏などの研究から、温熱環境を表す為に各要素の定義付けや組み合わせ方により、次のような指標が提唱されました。
これらの指標は一例で、全ては網羅出来ていないと思われますが、これらの指標を元に公的機関から規格 ( 例えば、ASHRAE 55 や ISO 7730 ) が発行されています。 許容できる温度の範囲は研究により異なりますが、おおよそ 17 度から 28 度とされており、これをまとめたのが先述した「ビルディングの環境衛生基準に関する研究」です。 許容できる温度範囲の一例として、ASHRAE 55 を読むと、グラフの網掛けしてある部分が設備計画としても無理のない快適域として提案されていると分かりますが、室温の上限としてなら辛うじて 28 度が入っている事、同時に温度以外に湿度や気流などの条件が揃わないと快適域に入らない事も分かります。 以上から、28 度という数値に根拠も背景もないとするのは誤りである事、快適さを求めるなら温度だけではなく湿度や気流、着衣量なども総合的に検討すべきである事が分かります。ASHRAE 55 で掲載されている快適域は条件により変化しますが、簡単に探る事が出来るオンラインツールが有りますので、参考文献を参照して下さい。 なお各指標について、温暖化していない、OA 機器が無い時代の研究結果を持ち出しても意味がない、設定温度を下げれば良いのだ、と仰る方が居るかもしれませんが、空調機の設定温度を下げたところで熱負荷に対して空調機の能力が不足または過大ならば、室内温度を適切に制御する事は出来ません。 つまり、設定温度の話と温暖化や OA 機器の話 ( 熱負荷のうち、外気負荷や OA 負荷 ) の話を中途半端に混同するのは、適切とは言えません。誤った考え方で無理やり設定温度を下げるのは、吹出口付近の結露によるカビや金属の発錆を誘発する危険性さえ有ります。熱負荷の考え方の詳細については、参考文献を参照して下さい。 熱負荷と能力について、概算ではなく真面目に計算するのであれば、空気調和衛生工学便覧、建築設備計画基準や同設計基準に掲載されている様な手順を踏む事になります。 湿度余談ですが、「よくある質問」にて掲載している資料では相対湿度と絶対湿度の違いについて空気線図も併用して解説しています。 温度や湿度の関係性について、資料で記載している様に空気線図を用いて手作業で読み取る事も出来ますが、オンラインツールで簡単に検証する事も出来ます。詳細は参考文献を参照して下さい。 空調機に関わる費用空調機に関わる費用は、電気代や空調機の寿命 ( 空調機の更新にかかる費用 ) を総合的に鑑みて決定する事を推奨します。 電気代の考え方についてはダイキン工業株式会社が夏と冬に実験している資料があるので、詳細は参考文献を参照して下さい。 空調機の寿命ですが、 ( 一社 ) 日本冷凍空調工業会のガイドラインによると、業務用の店舗用パッケージやビルマルチでさえ、積算運転時間 20,000 時間 ( 運転時間 10 時間 / 日、2,500 時間 / 年 ) を、オーバーホールや更新時期の一つの目安としています。 住宅用のルームエアコンは業務用ほどの過酷な運転は想定されてはいませんので、積算運転時間の限界は最大でも 20,000 時間未満と考えるのが妥当です。 性能と美観と保守性空調機の設置場所について、代表的な注意事項を記載します。 空調機は、美観を気にして室内機や室外機を垂れ壁などの死角や造作で作ったルーバー内へ設置するなどしたくなる事が有ります。実際、隠ぺい型の室内機なら制気口 ( 吹出口や吸込口の総称 ) のみ表面に出して室内機本体を隠すことが可能です。 しかし、室外機をブロック塀や植栽、壁掛など、露出型の室内機を垂れ壁などの死角や造作で作ったルーバー内へ設置するなど、何かで囲ったり覆ったりする事は勧められません。これは主に、吹き出した空気をそのまま吸ってショートサーキットを起こし、空調能力が低下する事が理由です。 室内機の場合はさらに、吹出温度が室内温度よりも低いまたは高い関係で、造作で作ったルーバーが熱応力で伸縮を繰り返すうちに破損、もしくは騒音の発生、直近の壁や天井を含めて結露させた挙げ句にカビまみれにして健康被害が発生、という可能性も有ります。 冷媒管やドレン管を壁内へ隠蔽する場合も、交換が必要 ( 例えば、R22 から R410A や R32 へ変更する場合、更新が必要になる事も有る ) になると、壁や天井の解体、復旧が必要になりますし、費用や改修期間にも影響します。 性能も、美観も、保守性も、それなりに考慮したい場合、例えば住宅向けのルームエアコンは、
という方法ならば、
と、バランスの良い仕上がりになるでしょう。 室内機を機能的に美しく納める方法ですが、天井隠蔽とブリーズラインの組み合わせ、壁掛をアクセントとして見せる、などの方法が考えられます。 天井隠蔽とブリーズラインでも、天井の形状や照明器具などとの取り合いを考えてなければみっともない状態にしかなりませんし、きちんと考えれば壁掛でも ( ある程度は ) スッキリとした状態に出来ます。 ブリーズラインは、塗装色を ( 一社 ) 日本塗装工業会が定めた色見本の中から選べる事が多いですが、天井カセットや壁掛でもフェイスパネルの色を標準仕様の中から選べる機種も有りますので、色を気にする時はそういった点も調査すると良いでしょう。 なお、フェイスパネルはほぼ合成樹脂製と思われますが、無理に塗装すると材質によっては割れたりプライマを用いても短期間で剥がれる可能性が有る事には、注意を要します。詳細は「筐体を塗装したい ( 調達編 ) 」を参照して下さい。 その他の注意空調室内機を取り付ける場所について、補足事項は次の通りです。
厚さ 12mm 程度の構造用合板や厚さ 1.6mm 程度の鉄板で補強した箇所か、間柱や軽鉄スタットか、またはコンクリート躯体へあと施工アンカーを用いて固定しましょう。仕上げボードに持たせるボードアンカーという製品も有りますが、十分な強度を得られずに何かの拍子に落下する危険が有りますので、勧められません。
空調室内機を台所内の冷蔵庫上部へ設置する、というアイデアを見かけた事も有りますが、冷蔵庫自体の放熱空間の確保もさることながら、そもそも室内機が水蒸気や油汚れを吸い込んでしまう可能性が高まります。 空調機が水蒸気や油汚れを吸い込んだ場合、空調機の寿命が縮む可能性が有ります。飲食店などの厨房なら厨房用エアコンを付ける場面ですので、出来れば避けた方が無難でしょう。
空調室内機直下へのコンセントや電気機器の設置は、ドレン水が漏れた時の事を考慮して避けた方が無難です。コンセントは空調機の横へ設けた方が良いでしょう。
冷媒管を収容する樹脂カバーについて、熱膨張係数が鋼管の何倍も大きいので、直射日光や給湯で熱応力が強く加わる時の直線距離制限や伸縮継手の使用が、メーカー仕様書で明記されています。施工者でもこれを見落とす事が有りますので、注意してみて下さい。 暗色系では耐候性をより期待できる一方、直射日光の赤外線を吸収しやすいという点を踏まえて、伸縮継手の個数など補正する必要が有るかもしれません。 非純正のスイッチは使ってよいのか非純正のスイッチ ( 例えば、スマートプラグ ) を用いて空調機の電源を入切する方法は、故障や火災の危険性が有るので避けた方が無難でしょう。余談ですが、暖房器具へスマートスイッチの類を用いるのは、リスクの高さから法令で禁止されています。 空調機の様に電動機がある機器や、消費電力が大きい機器へスマートプラグを用いる場合、スマートプラグ内部の電源を入切する回路もしくはリレーの機械的、電気的強度が十分ではなく、突入電流で接点の固着や、発熱からの火災の危険性が有ります。 照明器具に用いる様な人感センサでさえ、適合しない機器を組み合わせると「換気扇が動く度に、電動機の突入電流で人感センサが焼損、故障」という状況が発生します。スマートプラグ程度なら言うまでもありません。 なお空調機そのものについて、稼働中に突然スイッチを切って強制停電の様な事を行う事は、現行の機種では状態の監視と制御を行うのであまり問題は発生しないと思われますが、圧縮機がロックした状態になって故障する事も有るので、推奨は出来ません。 おまけkW と馬力について、換算する方法は次の通りです。
なお馬力は、日本馬力や英馬力、仏馬力と呼ばれるもの他、「警視庁馬力」なるものも存在した様です。 参考文献
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