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潤滑剤のメモ書き


もくじ

はじめに

今回は、潤滑剤のお話です。特にグリースへスポットをあてていきます。

潤滑剤とは、可動部などの摩耗や発熱を低減させる為に用いる物質で、JIS B 0162-3 によると大きく分けて気体潤滑剤、液体潤滑剤、潤滑油、グリース、固体潤滑剤が有ります。

軸受や摺動部では潤滑が欠かせないとされていますが、そもそも何のために潤滑を必要とするのか考えてみると、次の理由が考えられます。

  • 摩耗の抑制
  • 寿命の延長
  • 摩擦熱の抑制
  • シール効果 ( 軸受や摺動部への、異物の侵入防止 ) 

潤滑剤を用いると一見、無条件に滑りが良くなる様に思えますが、厳密には潤滑剤そのものの粘りによる抵抗が存在する為、軸受や摺動部の表面が滑らかに処理されていて、かつ、寿命が短くなっても良いのであれば、潤滑剤を付けない方が性能を発揮出来る場合が有ります。


グリースと潤滑油の違い

クラシック PC ( いわゆるレトロ PC ) では、回転数がそこまで高くないベアリングが存在 ( 例えば、冷却ファンや FDD など ) する事から、グリースが用いられる事が多い様です。但し、焼結含油軸受の様に潤滑油を用いるものも有ります。

グリースは JIS K 2220 によると、グリースの原料となる潤滑油の原料基油中に、増ちょう剤を分散して半固体又は固体状にしたものとされ、通常はグリース全体のうち、80% 程度の基油に 20% 程度程度の増ちょう剤に加えて、数 % の添加剤も混入しています。

グリースは主に、高負荷や低速回転のベアリング、摺動面やすべり軸受で潤滑油の膜を維持するのが難しい場所で用いられる事が多く、密封構造に出来る、シール効果が有る、適切に選定すれば飛散が少ないなどの利点が有る一方、潤滑油に比べ冷却効果が低いなどの欠点も有ります。


選定の要点

グリースは、基油と増ちょう剤、添加剤の組み合わせにより様々な種類が有ります。また、基油や増ちょう剤などの組み合わせが同一だとしても「ちょう度」や「粘度指数」などの指標が異なる場合が有ります。

「ちょう度」とはグリースの硬さを表す指標で、番号で分類されおり、数値が小さいほど柔らかく ( 混合ちょう度範囲の数値とは扱い方が逆なので、注意して下さい ) なります。一般的に、潤滑部が高速回転、低温度、低負荷の場合はちょう度が小さいものを、低速回転、高温度、高負荷の場合はちょう度が大きいものを選定します。

「粘度指数」とは温度変化に伴ってグリース粘度の変化具合を表す指標で、値が大きいほど粘度変化が小さくなります。

グリースは使用可能な温度範囲を確認するだけではなく、「ちょう度」や「粘度指数」なども合わせて確かめる必要が有ります。

樹脂製部品へグリースを用いる場合に忘れてはならないのが、樹脂製部品側は耐油性に劣っている事が少なくない事です。グリースの基油は種類によっては樹脂製部品に影響を与えますが、参考文献によると、エステル系基油は樹脂製やゴム製部品に適さない事が分かります。

クラシック PC ( いわゆるレトロ PC ) の場合、「ちょう度」は標準的な硬さとされる 2 号、基油はシリコン系など樹脂製部品に付着しても問題を起こさないグリースを基本として選定すると良い、と考えられます。


使用時の注意事項

グリースの充填量は、潤滑を必要とする部位の空間容積や回転速度、グリースの種類によって異なりますが、一般的には、充填量が多すぎると抵抗が大きくなりすぎたり放熱しにくくなって性能が悪化する為、適切な充填を心掛けた方が良いでしょう。

充填量についてベアリングでの目安を示すと、許容回転数に対する実際の回転数の割合で見た場合に、許容回転数の 50% 以下だと空間容積の 50% から 60% 程度、許容回転数の 50% 以上だと空間容積の 30% から 50% がおおよその目安とされています。

充填量を概略で計算する場合、その計算式は「機械の潤滑なんでも Q & A」という書籍を参考にすると次の通りです。

  • 玉軸受  : Q = d ^ 2.5 / 900 ( g ) 
  • ころ軸受 : Q = d ^ 2.5 / 350 ( g ) 
  • ここに、Q = 充填量、d = 軸受内径 ( mm ) 

グリース塗布時、内部へ異物 ( 空気や水分、摩耗片など ) の混入は出来るだけ避けなければなりません。これらが混入した場合、空気は酸化で基油の流出、水分の混入および摩耗片はベアリングそのものの損傷のほか、網目構造の破壊によるグリースの劣化を引き起こします。

異種のグリースを混合すると性状が変化してしまうので、原則として避けるべきです。グリースを置き換える為にやむを得ず混合してしまう場合は、増ちょう剤が同種で基油が類似のグリースを選定した上で、新しいグリースを多めに使用して古いグリースを押し出す様にする、などの対策を考えると良いでしょう。


保管方法

グリースは、湿気の少ない屋内の冷暗所に保管しましょう。直射日光を当てるなど過酷な環境に晒した場合、酸化を引き起こす以外にも容器内部の空気の頻繁な膨張、収縮により水分を吸収してしまうなど、何も良い事は有りません。

また、容器内のグリースが空気に触れる面積を出来るだけ減らす為に、容器内で平らにならした上で、蓋は完全に密閉する事は勿論のこと、気泡の巻き込みを防止する為に容器を横倒しや逆さまにして保管する事は避けた方が良いでしょう。


劣化の判定

グリースは経年変化で基油を保てなくなって性能を維持できなくなる為、本来は定期的に更新する必要が有ります。

劣化する原因は大きく分けて、空気による酸化や水分の混入など科学的な要因、遠心力による成分の分離や網目構造が破壊される事による軟化など物理的な要因、摩耗片などの異物の混入の三つに分けられます。

グリースの寿命を計算で求める場合、E.Booser の式が支持されています。他にも各メーカーが独自の計算式を提示している事も有りますが、基本的な考え方に違いは有りません。

新品時と比較して、気温が高い訳ではないのに柔らかい、変色してる、刺激臭がする場合は劣化している可能性が有る為、速やかに交換する事を推奨します。 


FDD の潤滑剤

潤滑剤の具体的な選定例として、参考文献から FDD の例を引用します。

FDD で潤滑剤を用いる部分は、次の通りです。

  • スピンドルモータの軸受
  • 磁気ヘッド駆動部の軸受
  • ディスク脱着部の摺動部

FDD で用いる潤滑剤に要求される性能はベアリング用と同等で、次に挙げる事項に注目すると良い様です。

  • 耐摩耗性が高い
  • 使用温度の範囲が広い
  • 回転部に用いても、周囲へ飛散しない
  • 経年変化を起こしにくい

スピンドルモータの軸受は、初期の頃はベアリングを用いた軸受を用いていましたが、小型化への要求から次第に焼結含油軸受が用いられる様になりました。よって、ベアリングの場合はグリース、焼結含油軸受の場合は潤滑油を用いる事になります。

磁気ヘッド駆動部は、高橋昇司氏の「フロッピ・ディスク装置のすべて」も参考に大まかに分類すると次の通りです。以下に挙げる種類以外にも有ると思われます。

  • ラックピニオン
  • リードスクリュー
  • スチールベルト
  • スパイラルカム
  • ボイスコイル
  • リニアパルス

それぞれ、精度やヘッドの移動速度、費用面で一長一短でしたが、最終的にはリードスクリュー型が広く用いられる様になりました。

磁気ヘッド駆動部に用いるグリースは、厳密には使い分けが必要な様です。例えば、リードスクリュー型の場合はシリコン系のグリースを用いる一方、リニアパルス型の日本電気株式会社の FD1139 シリーズではジエステル系油に添加剤を加えた合成潤滑油グリースとシリコン系のグリースを用いる、とされています。


おわりに

グリースは仕様書として「グリース性状表」が有り、参考文献によると本来は性状表を参照してグリースを選定する様です。

ベアリングの清掃や分解保守を行いたい場合は、ラジコンカーや釣り用具のウェブサイトなどを探すと参考になりそうな記事が見つかります。道具としては株式会社クリエーションモデル ( ABC HOBBY ) の「ベアリングリフレッシュセット」の様な物が有りますので、道具についても同時に調べると良いでしょう。


参考文献


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