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PC-98GS の FDD と CDD のピンアサイン


もくじ

はじめに

PC-9800 シリーズには実験的要素を含んでいる PC-98 型番の機種が存在しますが、その一つが 1991 年 11 月発売の PC-98GS です。PC-9800 シリーズの中ではマルチメディアを強く意識した最初の機種だと言われていて、確かに MPC 規格を意識して設計している節が有ります。

そんな PC-98GS ですが、内蔵している 90mm ( 3.5 インチ ) フロッピーディスクドライブ ( 以下、FDD ) や、CD-ROM ドライブ ( 以下、CDD ) は他の PC-9800 シリーズの機種では見かける事のない、特殊仕様の専用品が使用されています。

今回は、特殊仕様なドライブ類のピンアサインを出来る範囲で調べてみました、というお話です。

なお、PC-98GS のドライブ類以外の部品 ( 例えば、マザーボードや電源など ) は入手出来ていない為、ピンアサインの一覧表は不正確である可能性があります。


特殊仕様なフロッピードライブ

PC-98GS は本体仕様が model 1 と model 2 に分かれていて、どちらの仕様も FDD を内蔵しています。

FDD の型番は、この時期の PC-9800 シリーズで見かける FD1137C を名乗ってはいますが、FDD の 34 ピン端子に電源も含まれている他では見かけない特殊仕様です。


FDD の制御基板を見てみる

まずは、PC-98GS で用いられている FDD の制御基板などを見ていきます。

PC-98GS 用 FDD の
型番、部品番号 ( P/N ) 、制御基板の様子
参考写真 説明文

参考写真-1

シールド板と制御基板の全景。シールド板へ貼付されている紙には型番として「FD1137C」、部品番号 ( P/N ) として「134-500519-029-0」と印刷されています。

次に制御基板へ目をやると、基板へ貼付されている紙には名称として「G8CCC」と印刷されています。

なお、FD1137 シリーズでは制御基板は両面基板で作られている事が多いものの、PC-98GS 用の FD1137C は片面基板で製作されています。

参考写真-2

制御基板の部品面の全景。様子を観察すると単独の電源端子がない、ドライブ番号がスライドスイッチではなくジャンパスイッチになっている、ソレノイド用の端子がない事に気が付きます。 ( ヘッドロード機構がないので、ソレノイドも存在しません。 ) 

制御基板の名称が G8CCC である事は先述しましたが、ハンダ面にはさらに「134-856527-0-1」と「TCMK-81X」の表記が有ります。

電解コンデンサは容量はそれぞれ次の通りです。

C1 : 6.3V47µF
C3 : 6.3V22µF
C6 : 16V10µF

電解コンデンサは四級塩電解コンデンサと思われ、液漏れの痕跡が認められたので交換しました。

参考写真-3

スピンドルモータ基板の全景。電解コンデンサは 16V10μF が 1 個設置されています。外観上は液漏れの痕跡は見当たりませんでしたが、液漏れした電解液が見えない場所へ拡がったり、ドライアップしている可能性があるので、この電解コンデンサも交換しました。


FDD のピンアサイン

PC-98GS に内蔵されている FD1137C と、それなりに見かける標準的な仕様の FD1137C を比較して、それを元に推測したピンアサインが次に示す一覧表です。

なお、次に示す一覧表を元にして接続ケーブルの作成を行う記事を、工作室の記憶様が「PC-98GSの内蔵3.5インチFDDケーブル」として公開されています。接続ケーブルの具体的な作成方法は、工作室の記憶様の記事を参照して頂いた方が宜しいでしょう。

PC-98GS 用 FD1137C と標準仕様の FD1137C 比較表

NEC
FD1137C
PC-98GS 専用品
※1、※2
NEC
FD1137C
標準仕様品
※7



日本航空電子
PS-34SEN-D4P1-1C-N
or
PS-34SEN-D4P1-1D-N
相当品



参考写真-4 参考写真-5
1 不明
※3
GND
2 Density Density
3 不明
※3
GND
4 IN USE
※4
Head Load
or
IN USE
※8
5 +5V GND
6 Non Connected
※5
Drive Select 3
7 +5V GND
8 Index Index
9 +5V GND
10 Drive Select 0 Drive Select 0
11 +5V GND
12 Drive Select 1 Drive Select 1
13 GND GND
14 Drive Select 2 Drive Select 2
15 GND GND
16 Motor ON Motor ON
17 GND GND
18 Direction Select Direction Select
19 GND GND
20 Step Pulse Step Pulse
21 GND GND
22 Write Data Write Data
23 GND GND
24 Write Enable Write Enable
25 GND GND
26 Track 00 Track 00
27 GND GND
28 Write Protect Write Protect
29 不明
※3
GND
30 Read Data Read Data
31 KEY Pin
※6
GND
32 Side Select Side Select
33 不明
※3
GND
34 Ready Ready
  • ※1
    FDD に割り振られている P/N が 134-500519-029-0 の個体
  • ※2
    ピン番号の振り方は、制御基板のシルク印刷に従って表記する。おそらく他の FD1137 シリーズとは番号の振り方が異なるので、取り扱いに注意すること。
  • ※3
    テスターで簡易的に計測する限りは何処にも接続されていない様だが、制御基板の部品を取り外して調査した訳ではない。よって、何らかの信号に割り当てられているのか、将来用なのかは不明である。
  • ※4
    通常はヘッドロード機構の制御用に Head Load 信号が割り当てられているが、PC-98GS 用の FD1137C ではヘッドロード機構は取り付けられていない。その為、IN USE 信号として割り当てられている可能性がある。
  • ※5
    ジャンパピンは存在するものの、テスターで簡易的に計測する限りは Drive Select 3 信号として割り振られてはいない様だ。
  • ※6
    ピン自体が植えられていない。他の FD1137 シリーズでは見かけない、珍しい仕様である。
  • ※7
    ここでの標準仕様とは、PC-9800 シリーズ向けの仕様とする。
  • ※8
    ヘッドロード機構が有る場合はソレノイドの制御用に Head Load 信号が、ヘッドロード機構が省略されている場合は IN USE 信号が割り当てられている可能性がある。但し IN USE 信号については、検証した訳ではなく推測の域を出ない。

特殊仕様な CDD

PC-98GS は本体仕様が model 1 と model 2 に分かれている事は先述しましたが、model 2 の場合は CDD も内蔵しています。

この CDD は製造から既に 30 年が経過し、ピックアップユニットが劣化して読めなくなっている可能性が高いと思われます。

仮にまだ使用可能だとしても、CD-R を読み込めない、ディスクをドライブへ入れる時は一旦、キャディへ収容してからドライブへ入れるキャディ式であるなど、今となっては特殊としか言いようのない仕様で、かつ、いつ故障してもおかしくない状態だと思われます。

こういう理由があるので CDD を換装したくなってくるのですが、本体と CDD を接続する端子はデータ回路と電源回路が一体となった、これまた特殊な仕様です。


CDD の制御基板を見てみる

PC-98GS で用いられている CDD の制御基板などを見ていきます。

PC-98GS 用 CDD の
型番、部品番号 ( P/N ) 、制御基板の様子
参考写真 説明文

参考写真-6

本体から CDD を取り外したところ。イジェクトボタン、アクセスランプ、音声端子が全て本体側に備えられている事がわかります。

参考写真-7

シールド板と制御基板の全景。シールド板へ貼付されているシールには、製造メーカー名として「日本電気ホームエレクトロニクス株式会社」、型番として「CDR-82(PI)」と印刷されています。

制御基板は両面基板と思われる設計になっていて、ハンダ面 ( 画像で写っている面 ) には主に汎用ロジック IC や端子類が載っています。

参考写真-8

制御基板の部品面の全景。単独の電源端子がない、何らかの設定用と推測される DIP スイッチが存在している事に気が付きます。DIP スイッチは CDD の外部から設定できますが、何が設定出来るのかは不明です。

制御基板には、CXD1167Q や µPD78C14、WD33C93JM などの制御用コントローラ類が載っています。

なお、この個体は +5V と GND が短絡して故障していました。詳細な調査は行っていないものの、タンタルコンデンサらしきものがある事から、タンタルコンデンサがショートモードになって故障したものと推測されます。

参考写真-9

CDD 上部の制御基板と CDD 下部にあるスピンドルモータ基板を接続する配線は複数系統あって、接続間違いを起こしやすいので注意してください。


CDD のピンアサイン

CDD で使われているコントローラは WD33C93JM で、これを元に推測したピンアサインが次に示す一覧表です。

CDD 端子 ピンアサイン
※1
端子
規格
正式名称不明
※2
端子
形状
参考写真-10
ピン
番号
信号名 ピン
番号
信号名
1 不明
※3
26 LRCK
※4
2 +12V 27 BCLK
※5
3 +12V 28 WDCK
※6
4 +12V 29 DATA
※7
5 +5V 30 不明
※8
6 +5V 31 不明
※9
7 +5V 32 不明
※10
8 GND 33 -DB ( 0 ) 
9 GND 34 -DB ( 1 ) 
10 GND 35 -DB ( 2 ) 
11 GND 36 -DB ( 3 ) 
12 GND 37 -DB ( 4 ) 
13 GND 38 -DB ( 5 ) 
14 GND 39 -DB ( 6 ) 
15 GND 40 -DB ( 7 ) 
16 GND 41 -DB ( P ) 
17 GND 42 -ANT
18 GND 43 -BSY
19 GND 44 -ACK
20 GND 45 -RST
21 GND 46 -MSG
22 GND 47 -SEL
23 GND 48 -C/D
24 GND 49 -REQ
25 GND 50 -I / O
  • ※1
    ピン番号の振り方は、「シールド板の印刷」に従って表記する。
  • ※2
    正式名称は不明だが、純正の CDD には「I/O BUS」と印刷されている。
  • ※3
    74HC273 を経由して、µPD78C14 の 56 ピン ( 8bit I/O 信号入出力 ) へ接続。入出力である事を考慮するとアクセスランプ関係の可能性は否定できないが、詳細は不明。
  • ※4
    CXD1167Q の 80 ピン ( ストローブ信号出力 ) へ接続。DF オン時 88.2kHz、DF オフ時 44.1kHz。デジタル音声関連ではないかと思われる。
  • ※5
    CXD1167Q の 76 ピン ( デジタル音声信号用ベースクロック信号出力、CXD1167Q の 59 ピン ( PSSL 信号 ) が Low の場合 ) へ接続。
  • ※6
    CXD1167Q の 79 ピン ( ストローブ信号出力 ) へ接続。DF オン時 176.4kHz、DF オフ時 88.2kHz。デジタル音声関連ではないかと思われる。
  • ※7
    74LS14、74HC00 を経由して、CXD1167Q の 78 ピン ( デジタル音声出力、CXD1167Q の 59 ピン ( PSSL 信号 ) が Low の場合 ) へ接続。
  • ※8
    ショットキーバリアダイオードのような部品を経由して、µPD78C14 の 10 ピン ( 8bit I/O 信号入出力 ) へ接続。入出力である事を考慮するとアクセスランプ関係の可能性は否定できないが、詳細は不明。
  • ※9
    µPD78C14 の 33 ピン ( A/D コンバータ入力 ) へ接続。入力である事を考慮するとイジェクトボタン関係の可能性は否定できないが、詳細は不明。
  • ※10
    テスターで簡易的に計測する限りは何処にも接続されていない様だが、制御基板の部品を取り外して調査した訳ではない。よって、何らかの信号に割り当てられているのか、将来用なのかは不明である。

おまけ MPC 規格とは

冒頭で触れた MPC 規格とは、1984 年に設立された SPA こと、Software Publishers Association ( 参考翻訳文 : ソフトウェア出版協会、1999 年にほかの団体と合併して SIIA こと、Software and Information Industry Association、参考翻訳文 : ソフトウェア情報産業協会 ) が 1991 年から提唱した規格です。

もう少し詳しく書くと、SPA の中でも Multimedia PC Marketing Council  ( 参考翻訳文 : マルチメディア PC マーケティング協議会 ) が提唱した規格で、富士通株式会社、Microsoft Corporation や、Dell Technologies Inc. などの企業で構成されていました。

PC-98GS は MPC 規格のうち、最初に策定された Multimedia PC Level 1 の構成要件を意識したと思われる設計になっていますが、少なくとも発売時点だと、この規格を完全には満たしていなかったと考えられます。

例えば、かつて存在した協議会の公式ホームページによると構成ハードウェアの項目に Joystick port と記載があり、PC-98GS の場合は PC-98DO/P-11 を使用すると所謂 ATARI 仕様のジョイスティックを接続可能ですが、マウスとは排他使用のため、完全に満たしていると見做されていたのか不明です。

また、OS は「Binary compatibility with Windows 3.0 plus Multimedia Extensions or Windows 3.1」と記述されていましたが、PC-98GS 発売時点では Multimedia Extensions の日本語版は登場していなかった様で、本体に付属していたのは Windows3.0A でした。


参考文献


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