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列車火災の煙の行方


ある日のことです。ふと気になって、列車火災のある事について調べました。過去の歴史において大きな列車火災は何度か発生していて、日本国内に限っても、いわゆる「桜木町事故」や「北陸トンネル火災事故」などが有名ですね。

列車火災を発生させない、拡大させない為の予防策として内装仕上げほか材料を難燃化、不燃化することは重要です。この点については過去の事例を元に対策が強化されてきています。しかしながら、電気や燃料を使って列車を走らせている限り完全に火災の発生を防ぐ事は難しく、また、乗客が持ち込んだ物が発火することもあり得ます。

このことを考えると、火災が発生した後の対応策も事前に考えておかなくてはいけません。一般に走行中の列車で火災が発生した場合、第一に初期消火の実施、次に火災が発生した車両からの避難、停車後に所轄消防による消火活動、という手順をとることになるでしょう。避難にしても消火活動にしても、炎以外に煙も問題になりそうですね。

ここからが本題です。鉄道車両では火に対する法規制はありますが、煙に対する法規制は見つかりませんでした。では煙は発生しないのかというと、そんな事はありません。そこで何か煙への対処方法は無いのか考えていったとき、最終的に避難までの時間稼ぎとして「扉に遮煙性能 ( 煙を遮るための性能 ) を持たせたらどうだろうか」という結論にたどり着きました。

この記事では、結論 ( または思い付きとも言う ) に至るまでの経緯を記載しています。


列車火災に限らず火災発生時はまず火を消すこと、ようは初期消火を試みる事が大切です。消火器を常備しておくことは大切ですね ( 当たり前 ) 。消火してしまえば、火災による煙の供給を止める事が出来ます。

消火器では対応し辛い規模の火災を消火する為には、普通の建築物であれば消火栓やスプリンクラー、特殊消火 ( 泡消火や水噴霧、不活性ガスなど ) という手段もありますが、これらの技術を列車火災でも適用できるようにする事はかなり困難が伴います。

例えば特殊消火の場合、取り残された人間が窒息死してしまうおそれがあります。消火栓やスプリンクラーであれば窒息の危険はありませんが、列車に備え付ける方法では水を置くスペースの確保が困難と考えられますし、線路際やトンネル内に設置する方法も、水源やポンプ類の設置スペース、配管の圧力損失、条件によっては線路やトンネルの水没、電気による二次災害を考慮する必要があります。

いつの日か特殊消火の技術が応用されて、列車火災が発生しても全自動かつ簡単な方法で消火できる日が来るといいですが、実用化されるとしても遠い未来の事になりそうです。


消火して煙の発生を止める事が一筋縄で行きそうにないので、次に排煙機を設置して煙を逃がす方法に頼る事を考えましたが、これはこれで問題があり、十分な給気が確保できない場合は気圧差による扉の開閉障害の発生が考えられます ( 人力で扉を開放する事が困難になる、つまり避難誘導に支障が出る ) 。

そうでなくても、例えばトンネル通過中の列車内で火災が発生した場合、何も考えずにトンネル内に向かって排煙してしまっては消火活動を妨害しかねない事、車外で火災が発生した場合は、トンネル内に設置した排煙機が十分な能力を発揮できずに、車内へ煙が侵入し有毒ガスの吸引による被害がて出てしまう可能性がある事や、加圧防排煙を行う場合は却って火勢を助長しかねない、という懸念もあります。

この方法が使えるか考え始めて数分後には、どうやらこれだけでは不十分そうだ、という残念な結論が出てしまいました。

参考
排煙の考え方には二種類あり、避難の為の排煙と、消火活動を妨げないようにする排煙に分けられる。
列車火災時に原則としてトンネルは走り抜ける ( ただし脱出に 15 分以上かかるトンネルでは、定点避難所に停車して避難 ) ようにしているのは、避難経路の視界が極端に悪い状態で避難する事や煙を吸い込む事態を避ける以外に、消火活動をスムーズに行う目的も含まれていると思われる。

火災による煙が充満した空間を確実に排煙するのが意外と難しい為か、建築物の場合は建築基準法や消防法によりいくつかの規定が存在しています。


それならばせめて、煙を閉じ込めたり侵入させたりしないように出来ないだろうか、と考えました。何もずっと完璧に遮断するのではなく、避難完了まで人体に影響が出ない様に煙をある程度、遮断すれば良いのです。

どこを境にして煙を遮断するか考えたとき、問題になりそうなのが車両端の貫通扉や乗降用の扉で、隙間が空いていれば煙が出入りしてしまいます。逆に考えればこの扉に何らかの対策を施せば防煙区画を形成できる訳です。

考えがここまでたどり着いたとき、「実は扉に遮煙性能も備わっているんじゃないか」と思って再度関連した規定がないか調べてみたものの、貫通扉に関して常時閉鎖の防火戸として遮炎性能 ( 延焼を抑制する為の性能 ) を持たせている事を再確認できただけでした。何らかの理由で、あえて遮煙性能は規定されていないのかも知れません。 ( それとも知らないだけ ? ) 

それなら遮煙なんて現実的じゃないから何にも決まりがないんじゃないか、と言われそうですが、鉄道以外の世界に目を向ければ、扉にそれなりの遮煙性能を持たせることは不可能ではない事が分かります。 ( 避難するまで煙が拡散し難くする、時間稼ぎ程度ですが。 ) 


例えば建築物では、規模や用途により防火区画や界壁を必要とする場合がありますが、この部分に設ける開口部 ( 扉や窓、換気口など ) は「防火設備」としての要件に満足する必要があり、条件により遮煙性能が必要になる場合もあります。

参考
防火設備で分かりやすいのは、階段などで勝手に閉じる重い鉄製の防火戸。管理している建築物で火災が発生し負傷者が出て、後からドアストッパーなどで防火戸を開けっ放しにしていた事が発覚すると建築基準法違反による刑事責任を問われ、業務上過失致死傷で逮捕されるので止めよう。 ( 実例あり ) 

遮煙性能も求められる扉というと、エレベーター。エレベーターはいわゆる竪穴区画というものになる事が多く、この場合は建築基準法施行令 112 条 9 項による規制を受け、かつ、乗場扉などの防火設備は同施行令 112 条 14 項第二号ロにより遮炎性能と遮煙性能を確保することが義務付けられています。

単体でこの規定に適合するエレベーター乗場戸が製品として存在し、国土交通大臣の認定を取得していることを考えると、鉄道車両でも走行時の振動が遮煙性能にあたえる影響、導入コストの検証は必要ですが、扉に遮煙性能を持たせる事は十分検討に値するのでは、という結論に至ったのでした。


参考文献
鉄道に関する技術上の基準を定める省令等の解釈基準の一部改正について
日本の列車火災対策は万全か
地下鉄道の火災と排煙対策
エレベーター乗場戸の遮煙性能の変遷


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