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初期消火についての雑記


もくじ

引火した時の対処法

例えば接着剤や塗装を使用する場合、それなりの量の溶剤を扱う事になります。取り扱いを間違えなければ火災は発生しませんが、ついうっかり引火させるとあっという間に燃え広がるおそれも有ります。心配な場合は、次に記載する三つの事項を考慮すると安心できるでしょう。

  • 燃えている物には、ABC 粉末消火器

消火器具を用意する場合、溶剤が含まれる物や電気的な物の火災に対しては「ABC 粉末消火器を、直ちに使用できるよう準備しておく」が、一つの方法です。

  • 衣服に引火したら、水をかぶる

衣服の火災に対しては「消火用の水を、直ちに使用できるよう準備しておく」が、一つの方法です。

  • 燃え広がりやすい衣服を避ける

作業用に着用する衣服ですが、火災発生時の事を考慮すると生地の毛足が長いもの、難燃性能や防炎性能の低いものを避けた上で、万が一の際は直ぐに脱ぎ捨てられるものが良いと考えられます。

上記だけの記述では思い付きで書いていると思われるかも知れません。しかし、技術的な背景が有って記載しています。


火災の分類

消火の方法を考える時、まず最初に火災の分類を理解する必要が有ります。日本での火災の分類は「消火器の技術上の規格を定める省令」によると、以下の通り定められています。

火災の分類
名称 定義

A 火災

いわゆる普通火災。木材、紙、繊維などが燃える火災のこと。

B 火災

いわゆる油火災。定義としては、省令第一条の二 十四号「消防法別表第一に掲げる第四類の危険物並びに危険物の規制に関する政令別表第四に掲げる可燃性固体類及び可燃性液体類に係るものの火災」

C 火災

いわゆる電気火災。定義としては、省令第三十八条第 1 項 六号「変圧器、配電盤その他これらに類する電気設備の火災」

接着剤や塗料などで溶剤が多量に含まれる物が燃えた場合、溶剤の種類にも依りますが一般的には B 火災に該当すると考えられます。電気的な火災の場合、特に通電中ならば C 火災に該当すると考えられます。

余談ですが、天ぷら油は引火点が 250 度以上な事から平成十四年頃に規制緩和が行われ、令和三年現在は消防法上の危険物ではなく、火災予防条例で指定可燃物として規制が掛かっている事が多い様です。 ( 全国すべての地域の火災予防条例を調査した訳では有りません。 ) 


ABC 粉末消火器

火災の種類は分かりました。一見、どの火災でも水を掛ければ良いから分類なんて意味が有るのか、と思うかも知れません。しかし、消火するつもりで水を掛けると期待に反する結果を招く場合も有ります。

例えば、B 火災の定義に出てくる第四類の危険物、つまり引火性液体の多くは「水に溶けない」うえに「水より比重が小さい ( 軽い ) 為、浮き上がる」という特徴を持ち、燃えている時に水を掛けると条件に依りますが、水蒸気爆発や水の表面に浮いた引火性液体が油膜の状態で広範囲に流れて、結果として余計に延焼してしまう危険性が有ります。

C 火災の場合、通電中に火災が発生、かつ、絶縁体が溶けて導体が露出し漏電、という状況下で水を掛けると、感電など二次災害が発生する危険性が有ります。

先述した理由から、消火器具は火災の種類に適合する物を使う必要が有りますが、慌てている時に火災と消火器具の適合性の確認なんてしている余裕なんて有りませんから、事前に準備するなら汎用的に対応できる消火器具が良い訳です。

消火器具には様々な種類が有りますが、汎用的に対応可能かつ、個人で扱いやすい消火器具となるとやはり消火器です。その中でも、消火薬剤に粉末状のリン酸二水素アンモニウムを使用した消火器、つまり、消火器の中でも一番普及している ABC 粉末消火器 ( 業務用と家庭用が有ります ) が良い訳です。

但し、リチウムイオン電池の様に禁水性物質が含まれる場合は別途考慮が必要です。


火災の分類 ( 全米防火協会編 ) 

ここで参考に、海外における火災の分類の例として、NFPA ( 全米防火協会 ) の基準を紹介します。

火災の分類 ( 全米防火協会編 ) 
名称 定義

Class A Fires

Fires in ordinary combustible materials, such as wood, cloth, paper, rubber, and many plastics.

 ( 参考翻訳文 : 木、布、紙、ゴム、多くのプラスチックなどの一般的な可燃物の火災。 ) 

Class B Fires

Fires in flammable liquids, combustible liquids, petroleum greases, tars, oils, oil-based paints, solvents, lacquers, alcohols, and flammable gases.

 ( 参考翻訳文 : 可燃性液体、可燃性液体、石油系グリース、タール、オイル、油性塗料、溶剤、ラッカー、アルコール類、可燃性ガスの火災。 ) 

Class C Fires

Fires that involve energized electrical equipment.

 ( 参考翻訳文 : 通電している電気機器に関連する火災。 ) 

Class D Fires

Fires in combustible metals, such as magnesium, titanium, zirconium, sodium, lithium, and potassium.

 ( 参考翻訳文 : マグネシウム、チタン、ジルコニウム、ナトリウム、リチウム、カリウムなどの可燃性金属の火災。 ) 

Class K Fires

Fires in cooking appliances that involve combustible cooking media (vegetable or animal oils and fats).

 ( 参考翻訳文 : 可燃性の植物性または動物性の油脂を使用する調理機器の火災。 ) 

欧州については公式の規格が不明なので詳しく調査できていませんが、 Class A および Class D は NFPA と同等である一方、可燃性液体の火災を Class B 、可燃性ガスの火災を Class C 、食用油の火災を Class F とし、電気火災については規定されていない様です。

海外における分類の大きな特徴としては、金属の燃焼を伴う火災の基準が独立して設けられている事です。これは先述したリチウムイオン電池に関連してきます。

禁水性物質の一つであるリチウムが燃えている場合、消火の為に水をかけると化学反応の結果として水素が発生して爆発する可能性が有る事、ABC 粉末消火器では噴射時に燃えているリチウムが飛散して延焼を招く可能性が有る事から、産業用途の場合は金属火災用の消火器やいわゆる特殊消火設備を使用します。

個人レベルでは乾燥砂で覆って消火するのが良いものの、やむを得ないのであれば ABC 粉末消火器を使用するか、大量の水を掛け続けて冷却効果による消火を狙う方が良いと思われます。中途半端に少量の水を掛ける行為は、かえって危険な状況を生み出しかねません。


直ちに使用できるよう準備しておく

初期消火は火が天井に達する前 ( 参考までに、住宅では居室の床面から天井面までの高さは 3,000 mm も無いのが一般的 ) 、時間にすると長くて三分以内が限度と言われています。

初期消火はとにかく時間勝負です。それを考えたら消火器具を離れた場所へ取りに行くのは貴重な時間を無駄にする行為ですから、消火器具は直ちに使用できるよう準備しておく事が初期消火の成否に大きく関わってきます。

ABC 粉末消火器を噴射すると視界が悪くなりやすい事から、噴射する時は避難経路の方へ立ってから噴射すると、後で退避しやすくなります。


燃え広がりやすい衣服を避ける

着用している衣服に万が一引火した際、素材と表面形状の条件が揃えば表面フラッシュ現象が発生してしまいます。表面フラッシュ現象とは、炎が僅かに接触しただけで一瞬のうちに衣服全体に火が回る現象のことで、全身の火傷に繋がる危険な現象です。

特に生地の毛足が長いもの ( 起毛されているもの ) で、素材が綿やレーヨン、キュプラなどセルロース系繊維という条件が揃うと表面フラッシュ現象が発生しやすいとされていますので、出来れば毛足が長いなどの条件を避け、難燃性能や防炎性能が優れている物を着用すると良いでしょう。


おわりに

この記事では概要を把握しやすいよう、敢えて簡単な部分の記述に留めています。例えば、消火器は本来ならば種類以外にも建築物の用途や面積、能力単位、歩行距離なども検討事項ですが、省略しています。ご了承ください。


参考文献


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