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バックアップした媒体は譲渡してはいけないのか ? 


もくじ

はじめに

インターネットオークションなどを見ていると、OS やゲームなどの各種プログラムをなぜかコピーした状態で出品、販売していることがあります。

出品した当人ではないと正確な事情は分かりませんが、コピーした物を権利者が認めていないのにも関わらず出品、販売を行った場合その多くは著作権法に触れるでしょうし、見つかって捕まるだけならいざ知らず、場合によっては出品者、落札者の区別なく民事訴訟に巻き込まれてしまう事さえ考えられます。


ここまでは当たり前の話です。が、ある日ふと思いました。「明らかにコピーした媒体を、法令に抵触する方法で販売するのは駄目だろう。しかし原本が破損してしまったバックアップは、譲って良いのか悪いのか ? 」

いちど気になりだしたらもう止まりません。どこかで解説していないかと探しましたが、俗に「割れ物」「warez」などと呼ばれる、不正にコピーしたプログラムに関して著作権法の詳細な解説をしているウェブサイトは見つかれど、バックアップは個人的になら良い、程度の記述しか見つかりません。

ならば宜しい、解説がないなら条文をあたって調べちまえ、ということで著作権法を調べましたので私なりの解釈を以下に記載します。

注意 - この記事を読む前に

この記事は、令和三年 1 月 1 日時点の法令を元に記載しています。よって、それ以降の改正については反映できていない可能性が有る事をご理解頂いた上でお読み下さいます様、お願い致します。


用語の定義

まずは定義をはっきりさせないことには話が始まりませんので、用語の定義を記載していきます。以降、法令に関し、特記なき場合は著作権法の条文を示すものとします。

  • 「著作物」とは ? 

法第二条第 1 項一号より、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」

  • 「著作者」とは ? 

法第二条第 1 項二号より、「著作物を創作する者をいう。」

  • 「プログラム」とは ? 

法第二条第 1 項十の二号より、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものをいう。」


コピーして良いのか ? 

用語の定義が分かったところで、まずはバックアップ目的のコピーをしても良いという条文があるのか確認しましょう。

プログラムの著作物の複製物の所有者 ( ようはプログラムを買った、貰った人。プログラムの原本であるソースコードは作った人の手元にあり、買った、貰った人はソースコードをコンパイルして得られたオブジェクトコードを複製したものを所有していることにすぎない、という理屈で訳の分からない書き方になっています。 ) よるコピーに関しては、法第四十七条の三に規定されています。

条文中にある「プログラムの著作物の複製物の所有者は ( 中略 ) 必要と認められる限度において、当該著作物を複製することができる。」を根拠として、必要と認められる限度のコピーを行うこと ( 例えば業務用に用いているプログラムを原本 1 部に対して、バックアップ目的のコピーを 1 部作成など ) は適法だと考えられます。 ( 逆に、大量にコピーを行う行為は、必要と認められる限度のコピーと認められるか疑問です。 ) 

「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」、つまり私的使用を目的とする複製の場合は、法第三十条の規定に抵触しない事も条件だと考えられます。

なおコピーしたプログラムの使用については、上記以外に法第百十三条第 5 項、法第百十九条第 2 項六号も関連しますので、必要に応じて条文を直接参照して下さい。


コピーした媒体を所有できる条件

では、バックアップ目的でコピーした媒体を所有して良い条件とは何でしょう ? 

これは法第四十七条の三第 2 項に書いてあり、「前項の複製物の所有者が当該複製物 ( 同項の規定により作成された複製物を含む。 ) のいずれかについて滅失以外の事由により所有権を有しなくなつた後には、 ( 中略 ) その他の複製物を保存してはならない。」とあります。

つまり買った、貰った時の媒体を滅失以外の事由 ( 売却や譲渡など ) で所有しなくなったら、バックアップ目的のコピーした媒体を破棄しなければならないのですね。ここでひとつ、気になる単語が出てきました。「滅失」です。国語辞典によると、滅失とは物理的な存在を失う事を指します。

条文中の「滅失以外の事由により」「保存してはならない」を信じて逆にとらえるならば、原本が物理的に存在しなくなった場合は、バックアップ目的のコピーした媒体を所有して良いことになります。


譲渡できる ? できない ? 

次に媒体を有償、無償に関わらず譲渡する場合の条件とはなんでしょうか ? 

調べると法第二十六条の二第 1 項に譲渡権というのがあり、これを見ると「著作者は、その著作物 ( 中略 ) をその原作品又は複製物 ( 中略 ) の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。」とあります。

この条文だけ見ると一見、プログラムが入った媒体を中古として出品、販売する行為はすべて法令に抵触するかのような気がしますが、これには続きがあって第 2 項に「前項の規定は ( 中略 ) 次の各号のいずれかに該当するもの ( 中略 ) 適用しない。」場合があります。

さらに読み進めると第 2 項一号に「前項に規定する権利を有する者 ( 中略 ) により公衆に譲渡された著作物の原作品又は複製物」と書かれていて、平たく言えば、いったん市場に供給された媒体は適法な方法であれば、権利者といえど売却や譲渡を禁止できる程の法的根拠は存在しない、ということです。

ゲームのプログラムについては法第二十六条による頒布権が認められている為、これも譲渡出来ない様に思えますが、中古販売に関する裁判で「当該著作物の複製物を公衆に譲渡する権利は、いったん適法に譲渡されたことにより、その目的を達成したものとして消尽」するという解釈が示されています ( 平成 13 年 ( 受 ) 第 952 号 ) 。


結論

以上の条文を総合的に判断すると、適法なバックアップ目的のコピーを作成、所有している場合で、原本とコピーを同時または、原本が滅失してしまったのでバックアップのみ譲渡する場合、これを明確に禁止している条文を発見することはできませんでした。

よって、私個人の解釈ではバックアップを譲渡することは、著作権法上は即座に抵触するとは言えないのではないか、という結論になりました。

しかし、著作権法に引っかからないからと言って迂闊な事をすると、他の法律 ( 例えば不正競争防止法や特許法、商標法など ) や、契約上の条件に抵触してしまう事も考えられるので、注意してなくてはなりません。


余計な話 その 1 

余談ですが、巷では所謂「レトロゲーム互換機」という純正のゲーム機をエミュレートする機械が販売されていますが、この機械についてどういう訳か、互換機本体にゲームのプログラムをコピーする行為 ( 所謂、吸い出し ) そのものが抵触する、という主張に基づいて批判される事があるようです。

しかしこの主張は正確ではありません。結論から申し上げれば、「著作権法の各規定を順守した」うえでプログラムをコピーしている場合に限り、適法であると考えられます。

これは「記憶媒体の変換の為の複製」や「使用者のコンピュータで使用可能とするために必要となるプログラムの改変に伴うリプレイスのための複製、翻案」は「必要と認められる限度の複製」として認められている為です。 ( 著作権法第二十条 2 項三号、第四十七条の三 1 項、大阪地判 平12.12.26 ( 平 10 ( ワ ) 10259 号 ) ) 。

また上記に関連し、「電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等」 ( 法第四十七条の五 ) も有りますので、必要に応じて条文を直接参照して下さい。


余計な話 その 2 

所謂「割れ物」「warez」などと呼ばれる、不正にコピーしたプログラムを公衆に提供する様な行為は法令に抵触しますし、ゲームプログラム内のパラメータ改変を行うのも「同一性保持権」の侵害とみなされる場合がある事は、ご存じだと思います ( 某 k 社の例が有名ですね ) 

しかし「技術的保護手段 ( もしくは技術的制限手段 ) 」を回避した場合の適法性について情報が錯綜しているようです。これは法改正が数次に渡って行われた事による混乱だと思われますが、以下に基本的な考え方を記載しておきます。まずは不正競争防止法から、制度の概要を記載します。

不正競争防止法における制度の概要
  • 不正競争防止法第二条第 1 項十七号、十八号および第 8 項で定める「特定の反応をする信号」 ( データのコピー自体を不可能にするなどの、コピーコントロール技術の事 ) を不正に回避する方法の提供は、不正競争防止法第二十一条第 2 項四号による罰則規定の適用を受ける
  • 「特定の変換」 ( データのコピーは出来てもデータ自体を暗号して使用できないようにする、本体と媒体の間で特定の信号をやり取りしないとソフトウェアを使用できないようにするなどの、アクセスコントロール技術の事 ) を不正に回避する方法の提供も、同様である。

上記については、元の条文をよく読んで頂くと分かりますが、何れの場合も提供側に対する規制です。ですから、回避する行為そのものは自体は禁じられていません。次に、著作権法の制度の概要を記載します。

著作権法における制度の概要
  • 法第二条第 1 項二十号に定める「技術的保護手段」 ( コピーガード ) を不正に回避する方法の提供は、法第百十三条第 7 項により侵害しているとみなされ、法第百二十条の二第一号および二号による罰則規定の適用を受ける
  • 法第二条第 1 項二十一号に定める「技術的利用制限手段」 ( アクセスコントロール ) を不正に回避する方法の提供も、法第百十三条第 7 項により侵害しているとみなされ、法第百二十条の二第一号および二号による罰則規定の適用を受ける
  • 技術的保護手段の回避は、法第三十条第 1 項二号により抵触する ( 罰則規定は無いが、民事的に差止や損害賠償を請求される可能性有 ) 
  • 技術的利用制限手段の回避は、法第百十三条第 6 項により抵触する ( 罰則規定は無いが、民事的に差止や損害賠償を請求される可能性有 ) 

技術的保護手段の回避は例外なく抵触してしまいますが、技術的利用制限手段の回避については「研究又は技術の開発の目的上正当な範囲内で行われる場合その他著作権者等の利益を不当に害しない場合」には、侵害する行為から除外すると条文中に明記されています。

なお、技術的利用制限手段は「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律」により規制されるようになった経緯が有りますが、磁気ディスクや光学ドライブをエミュレートする機器などの事を考慮すると、法令上の「不当に害しない場合」の具体的解釈だけではなく、環太平洋パートナーシップ協定そのものの動向についても注視していく必要があると思われます。


おわりに

最後になりますが、法律は解釈が難しいものです。 ( その分、味方につけると心強い訳ですが ) 

特にプログラムとなるとそもそも定義の解釈が難しい面もあり IBF ファイル事件のように組込み情報を記載した電子データは「指令を組み合わせて」いないので、電子計算機に対する指令の組み合わせとは言えない ( つまり、著作権法上のプログラムとしての保護は受けない ) と判断される事もあったりします。

ですので、ここに書かれていることは「こんな考え方もあるんだ」程度に読み流していただければ幸いです。


参考文献


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