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バックアップした媒体は譲渡してはいけないのか ? 


インターネットオークションなどを見ていると、OS やゲームなどの各種プログラムをなぜかコピーした状態で出品、販売していることがあります。

出品した当人ではないと正確な事情は分かりませんが、コピーした物を権利者が認めていないのにも関わらず出品、販売を行った場合その多くは著作権法に触れるでしょうし、見つかって捕まるだけならいざ知らず、場合によっては出品者、落札者の区別なく民事訴訟に巻き込まれてしまう事さえ考えられます。


ここまでは当たり前の話です。が、ある日ふと思いました。「明らかにコピーした媒体を、非合法な方法で販売するのは駄目だろう。しかし原本が破損してしまったバックアップは、譲って良いのか悪いのか ? 」

いちど気になりだしたらもう止まりません。どこかで解説していないかと探しましたが、俗に「割れ物」「warez」などと呼ばれる、不正にコピーしたプログラムに関して著作権法の詳細な解説をしているウェブサイトは見つかれど、バックアップは個人的になら良い、程度の記述しか見つかりません。

ならば宜しい、解説がないなら条文をあたって調べちまえ、ということで著作権法を調べましたので私なりの解釈を以下に記載します。


用語の定義

まずは定義をはっきりさせないことには話が始まりませんので、用語の定義を記載していきます。

  • 「著作物」とは ? 

第二条第 1 項一号より、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」

  • 「著作者」とは ? 

第二条第 1 項二号より、「著作物を創作する者をいう。」

  • 「プログラム」とは ? 

第二条第 1 項十の二号より、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものをいう。」


コピーして良いのか ? 

用語の定義が分かったところで、まずはバックアップ目的のコピーをしても良いという条文があるのか確認しましょう。

プログラムの著作物の複製物の所有者 ( ようはプログラムを買った、貰った人。プログラムの原本であるソースコードは作った人の手元にあり、買った、貰った人はソースコードをコンパイルして得られたオブジェクトコードを複製したものを所有していることにすぎない、という理屈で訳の分からない書き方になっています。 ) よるコピーに関しては第四十七条の三に規定されています。

条文中にある「プログラムの著作物の複製物の所有者は ( 中略 ) 必要と認められる限度において、当該著作物の複製又は翻案 ( 中略 ) をすることができる。 ( 以下略 ) 」を根拠として、必要と認められる限度のコピーを行うこと ( 例えば業務用に用いているプログラムを原本 1 部に対して、バックアップ目的のコピーを 1 部作成など ) は合法です。

逆に考えると無限大にコピーを行う行為は、必要と認められる限度のコピーと認められるか疑問です。なお「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」で「私的使用」する場合は、第三十条、第四十三条一号により、もう少し条件が緩和されます。

ただし、第二条第 1 項二十号に定められた「技術的保護手段」を不正に回避した場合は、例え私的使用であっても著作権法に抵触しますので注意しましょう。


コピーした媒体を所有できる条件

では、バックアップ目的でコピーした媒体を所有して良い条件とは何でしょう ? 

これは第四十七条の三第 2 項に書いてあり、「前項の複製物の所有者が当該複製物 ( 同項の規定により作成された複製物を含む。 ) 滅失以外の事由により所有権を有しなくなつた後には、 ( 中略 ) 複製物を保存してはならない。」とあります。

つまり買った、貰った時の媒体を滅失以外の事由 ( 売却や譲渡など ) で所有しなくなったら、バックアップ目的のコピーした媒体を破棄しなければならないのですね。ここでひとつ、気になる単語が出てきました。「滅失」です。国語辞典によると滅失とは物理的な存在を失う事を指します。

「滅失以外の事由により」「保存してはならない」という文言を信じて逆にとらえるならば、原本が物理的に存在しなくなった場合は、バックアップ目的のコピーした媒体を所有して良いことになります。


譲渡できる ? できない ? 

次に媒体を有償、無償に関わらず譲渡する場合の条件とはなんでしょうか ? 

調べると第二十六条の二第 1 項に譲渡権というのがあり、これを見ると「著作者は、その著作物 ( 中略 ) をその原作品又は複製物 ( 中略 ) の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。」とあります。

この条文だけ見ると一見、プログラムが入った媒体を中古として出品、販売する行為はすべて非合法であるかのような気がしますが、これには続きがあって第 2 項に「前項の規定は ( 中略 ) 次の各号のいずれかに該当するもの ( 中略 ) 適用しない。」場合があります。

さらに読み進めると第 2 項一号に「前項に規定する権利を有する者 ( 中略 ) により公衆に譲渡された著作物の原作品又は複製物」と書かれていて、平たく言えば、いったん市場に供給された媒体は合法的な方法であれば、権利者といえど売却や譲渡は禁止できない、ということです。

ゲームのプログラムについては第二十六条による頒布権が認められている為、これも譲渡出来ない様に思えますが、中古販売に関する裁判で「当該著作物の複製物を公衆に譲渡する権利は、いったん適法に譲渡されたことにより、その目的を達成したものとして消尽」するという解釈が示されています ( 平成 13 年 ( 受 ) 第 952 号 ) 。


結論

以上の条文を総合的に判断すると、合法なバックアップ目的のコピーを作成、所有している場合で、原本とコピーを同時または、原本が滅失してしまったのでバックアップのみ譲渡する場合、これを明確に禁止している条文を発見することができませんでした。

よって、私個人の解釈ではバックアップを譲渡することは、著作権法上は即座に非合法とは言えないのではないか、という結論になりました。

しかし、著作権法に引っかからないからと言って迂闊な事をすると、他の法律 ( 例えば不正競争防止法や特許法、商標法など ) や、契約条項に抵触してしまう事も有るので、注意してなくてはなりません。


余計な話 その 1 

余談ですが、巷では所謂「レトロゲーム互換機」という純正のゲーム機をエミュレートする機械が販売されていますが、この機械についてどういう訳か、互換機本体にゲームのプログラムをコピーする行為 ( 所謂、吸い出し ) そのものが非合法である、という主張に基づいて批判される事があるようです。

しかしこの主張は正確ではありません。結論から申し上げれば、「著作権法の各規定を順守した」うえでプログラムをコピーしている場合に限り、合法であると考えられます。

これは「記憶媒体の変換の為の複製」や「使用者のコンピュータで使用可能とするために必要となるプログラムの改変に伴うリプレイスのための複製、翻案」は「必要と認められる限度の複製」として認められている為です。 ( 著作権法第二十条 2 項三号、第四十七条の三 1 項、大阪地判 平12.12.26 ( 平 10 ( ワ ) 10259 号 ) ) 。


余計な話 その 2 

所謂「割れ物」「warez」などと呼ばれる、不正にコピーしたプログラムを入手する事は問答無用で非合法ですし、ゲームプログラム内のパラメータ改変を行うのも「同一性保持権」の侵害とみなされる場合がある事は、ご存じだと思います ( 某 k 社の例が有名ですね ) 

しかし「技術的保護手段 ( もしくは技術的制限手段 ) 」を回避した場合の合法、非合法の判断について情報が錯綜しているようです。これは法改正が数次に渡って行われた事による混乱だと思われますが、以下に基本的な考え方を記載しておきます。まずは不正競争防止法から、制度の概要を記載します。

不正競争防止法における制度の概要 ( 第二条第 1 項十一号、十二号 ) 

  • 「特定の反応をする信号」 ( データのコピー自体を不可能にするなどの、コピーコントロール技術の事 ) を不正に回避する方法の提供は、第二十一条第 2 項による罰則規定の適用を受ける
  • 「特定の変換」 ( データのコピーは出来てもデータ自体を暗号して使用できないようにする、本体と媒体の間で特定の信号をやり取りしないとソフトウェアを使用できないようにするなどの、アクセスコントロール技術の事 ) を不正に回避する方法の提供も、第二十一条第 2 項による罰則規定の適用を受ける

上記をよく読んで頂くと分かりますが、何れの場合も提供側に対する規制です。ですから、回避する行為そのものは自体は禁じられていません。次に、著作権法の制度の概要を記載します。

著作権法における制度の概要
 ( 第二条第 1 項二十号、第三十条第 1 項二号 ) 

  • 「特定の反応をする信号」や「特定の変換」を不正に回避し、コピーする事は非合法である ( 罰則規定なし、民事的に差止や損害賠償を請求される可能性有 ) 
  • 「特定の反応をする信号」や「特定の変換」を不正に回避する方法の提供は、第百二十条の二各号による罰則規定の適用を受ける
  • ただし、「特定の変換」のみ行われている場合に、これをコピーする事なく回避する行為は 2017 年 10 月時点では規制対象外

最後に気になる一文が出てきました。実は 2016 年に「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律」が公布されるまでは、著作権法では「特定の変換」が行われている場合に、これをコピーする事なく回避する行為は規制対象外でした。

ところが同法が成立して公布された為に、この法律が施行された時点で同法第八条による読替えにより「特定の変換」を回避する行為は「著作権者等の利益を不当に害しない場合を除き」非合法となり、一定条件下では刑事罰もありえる状況になりました ( 現時点では、同法の施行日は未定 ) 。

以上の事を考慮しますと、今後は「特定の反応をする信号」を回避する方法の提供や使用が非合法であるだけではなく、「特定の変換」についても、法律の運用や「不当に害しない場合」の具体的解釈の内容次第では、「特定の変換」を回避する機器やプログラムについて提供や使用が難しくなる可能性があります。

また、光学ドライブをエミュレートする機器などは、どのような扱いになるか分かりませんので、この点から見ても「不当に害しない場合」の具体的解釈について、今後の動向を注視していく必要があると思われます。


最後になりますが、法律は解釈が難しいものです。 ( その分、味方につけると心強い訳ですが ) 

特にプログラムとなるとそもそも定義の解釈が難しい面もあり IBF ファイル事件のように組込み情報を記載した電子データは「指令を組み合わせて」いないので、電子計算機に対する指令の組み合わせとは言えない ( つまり、著作権法上のプログラムとしての保護は受けない ) と判断される事もあったりします。

ですので、ここに書かれていることは「こんな考え方もあるんだ」程度に読み流していただければ幸いです。


参考文献
コンピュータ・プログラムの保護
プログラムの著作物性
プログラムのファイルの著作物性が争われた事件
技術的な制限手段による保護について
情報の不正利用を防止する技術の保護の在り方について
技術的保護手段の規定の見直し


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