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PC-9821 Ls12 の二次電池について


もくじ

はじめに

本来、この記事は PC-9801 LX4 に関わる記事と纏めて掲載する予定でしたが、あまりにも記事が長くなりすぎたため分割した物です。その為、一部重複している内容もあります。


バッテリパックの中身

98note ではバッテリパックの電池として、PC-9801NL/R 、PC-9821Ne 頃の機種までは Ni-Cd 電池を、それ以降の機種では Ni-MH 電池を中心に、Lavie シリーズの一部機種や Aile シリーズではリチウムイオン二次電池を採用しているようです。

例として、Aile シリーズの機種である PC-9821 Ls12 では、バッテリパックにリチウムイオン二次電池を採用しています。 ( 本体内部の RTC 用バックアップ電池は、バナジウムリチウム二次電池です。 ) 

PC-9821 Ls12 のバッテリパックは PC-9821LS-U02 という型番ですが、このバッテリパックは内部で「単電池」や「セル」と呼ばれる乾電池のようなリチウムイオン二次電池を 6 本接続し、さらに充放電制御用の IC が載っている基板を組み合わせる事で、いわゆる「組電池」の状態になっています。

ちなみに PC-VP-TP02 は、PC-9821LS-U02 の PC98-NX シリーズ ( Aile NX AL20C ) 向け製品です。


リチウムイオン二次電池の仕様

「単電池」の形状は、円筒形、角形、ピン形など様々です。参考でパナソニック インダストリー株式会社のホームページを挙げておきます。

また形状が似ていても、メーカーや品種により正極や負極、電解質に用いられる材料の組み合わせが異なったり、容量や電圧、単電池へ保護回路を内蔵しているか否か等、単電池の仕様は他の電池と比べて思いのほか複雑な組み合わせで構成されています。

正極や負極、電解質の参考として、以下に参考文献を提示します。

例に挙げた PC-9821 Ls12 の場合、RTC 用バックアップ電池として「 VL2330 」を、バッテリパックには「 18650 」という、円筒形で直径約 18mm、長さ約 65mm、電圧 3.6V、容量 2700mAh、保護回路別置形の単電池を使用しています。 ( 18650 は 3.6V 仕様以外に 3.7V 仕様もあります。 ) 


電圧の違い

PC-9821 Ls12 のバッテリパックに用いられている単電池を交換しようとして、入手できた単電池が 3.7V 仕様の 18650 だった場合、交換できるのでしょうか ? 

結論からすると不可能だと思われます。これは 18650 に限らずリチウムイオン二次電池全般に言えますが、リチウムイオン二次電池を制御する IC は、何重にも安全対策を施したうえで電圧を厳密に監視しているので、0.1V の差も感知して充放電を停止させるか、中途半端にしか充放電できない可能性があります。 ( 多くの場合、制御用 IC は詳細な仕様を公開していないので、正確には分かりません。 ) 

細かく制御を行っているのは、リチウムイオン二次電池そのものが僅かな条件の違いで危険な状態に移行しやすく、事故時に爆発するおそれがある為です。 ( 産業用になると消防法で危険物扱いとなったり、又は事故時に有害な気体が漏出するおそれ有り、と警告がなされる事もある程です。 ) 

PC-9821 Ls12 の電池を交換する時は、同等品を用意出来て万が一の際もそこまで大きな被害が発生しないであろう、 RTC 用バックアップ電池 ( VL2330 ) の交換のみに留めてください。バッテリパックの単電池 ( 18650 ) の交換は余程の理由が無い限り、お勧め出来ません。外部に小型 UPS を増設するのが、手軽で安全だと考えられます。

なお、マザーボードと RTC 用バックアップ電池 ( VL2330 ) を接続する端子の詳細は、工作室の記憶様の「PC-98 のコイン型リチウム二次電池と一次電池によるその代替」という記事を参照してください。


交換手順の参考

どうしてもバッテリパックの単電池 ( 18650 ) を交換したい人は、爆発するかも知れない事を覚悟したうえで、以下の手順を参考にしてください。

バッテリパックの単電池を交換する方法
順序 説明文

1

交換用単電池の発注に先だって、まずはバッテリパックを分解します。大抵は接着剤で接合されている状態ですので、接合部に沿ってカッターナイフ等を用いて切断します ( これが俗に言う殻割り ) 。

内部の基板、フィルムケーブル ( 以後、基板等と記述 ) を傷つけない様、少しずつ慎重に切断してください。傷つけると、そこから発熱して危険です。

2

ケースを分解出来たら、まずは基板等の様子を観察してください。

単電池の状態を監視する制御用 IC の種類によっては、単純に単電池を交換しても充電出来ない事があります ( 最後に放電した状態を記録していて、単電池を交換するだけでは充放電できない事がある模様 ) し、そもそも単電池の液漏れで基板等が盛大に腐食していると、この時点で単電池の交換を諦めなければならない事があります。

3

基板等が腐食していない様であれば、次に回路構成を記録しておきましょう。

この時、ヒューズが断線していないかも確認します。単電池の接続方法は直列なのか並列なのか、またヒューズや温度サーモの接続位置などを記録します。繋げ方を間違えるとバッテリパックを元に戻せなかったり、単電池が爆発したり燃えたりする危険性もあります。

4

次に基板等を傷めない様、コネクタやハンダを除去して単電池を取り出します。

一見、単電池は完全に放電しているように見えますが、実際にはそうでない事も多々ありますので、迂闊に金属製のドライバーやピンセットを使って作業しないでください。

5

単電池を取り出す事が出来たら、タブの有無やその形状を確認したうえで、単電池のサイズをノギスで正確に測って下さい。

これはメーカーにより僅かですが単電池のサイズが異なる為です。入手した単電池が大きければバッテリパックのケースに納まりませんし、無理に押し込むと単電池の内部で短絡してケースごと燃える可能性もあります。

6

純正の単電池を観察して仕様を把握できたら、候補になっている単電池の仕様書を熟読して、仕様が同一である単電池を入手してください。

7

単電池はタブ付の物を入手した方が良いでしょう。複数個必要な場合は、バラつきを考慮し出来る限り同一製造ロットとする事が望まれます。

一般に、タブ無しの単電池はハンダづけが著しく困難です。フラックスとハンダを組み合わせてハンダづけしたり、簡易的なスポット溶接などを行う事で克服できますが、信頼性の点であまりお勧め出来ません。

8

単電池を入手出来たら、まずは電圧を計測してください。仕様書で規定されている最低電圧を下回っていなければそのまま組み立てても問題ありません。

ただし極端に電圧が低かったりバラつきが大きい場合、組み立てても充電できない事があったり、転極を起こしたりする場合があります。この場合は新たに別の単電池を入手する方が良いでしょう。 ( カツ入れという方法もあるのですが、危険極まりないので書きません。 ) 

9

バッテリパックの組み立てに先立って、基板等に傷が付いていないか確認します。

傷が付いている場合はハンダめっきを施して補修し、ハンダめっきでは補修できない、フィルムケーブルに異常がある場合は、単電池や基板の邪魔にならない位置か確認して、ジャンパ線を敷設して補修しましょう。

10

続いて、記録しておいた回路構成に従ってバッテリパックを組み立てていきます。

この時、基板等は当然ですが単電池の被覆を傷つけたり、極性を間違えたりしない様に注意してください。新品の単電池は過放電にならない様にある程度は充電されている状態ですから、組み立てた後で極性を確認しようと考えていると危険です。単電池が爆発したり燃えたりする危険性もあります。 ( 2 度目 ) 

11

組み立てが完了したら、テスター等を用いて最終確認を行います。この時、うっかり短絡させないように注意してください。

12

最終確認が完了したら、何度か充放電の試験を行います。

この時、燃えても大丈夫なように可燃物を遠ざけたうえで、念には念を入れて消火器を用意しておくと万全でしょう。試験の結果、特に問題がなければ単電池の交換は完了です。


延命のコツ

リチウムイオン二次電池の寿命について、過充電、急速充電、過放電共に悪影響を与えます。長持ちさせたいならば、これらを出来るだけ避けた方が無難でしょう。

理想を書けば、電池の残容量が出来るだけ 50% 付近になる様に使っていくと傷めにくいとされています。つまり極端な話、残容量を 100% から 0% の間で行ったり来たりさせるよりも、60% から 40% の間で使う方が有利、という事です。

過充電や急速充電、過放電の対策を手動で行おうとすると結構な手間になってしまいますが、比較的最近製造されたスマートフォンやノート PC の場合は「いたわり充電」や「スマート充電」などの設定項目を持っている事が有り、これを有効にすると自動的に対策可能です。

なお、電池の残容量を 50% 付近で維持しようと考えた時、継ぎ足して充電すると所謂メモリー効果により見かけ上の充電容量が減ってしまわないか不安になる方も居ると思いますが、この現象はニッケルを使用する電池 ( 例えば、Ni-Cd や Ni-MH ) のみ関係する現象です。リチウムイオン二次電池の場合は関係しないので、心配する必要はありません。

ところで、所謂まとめサイトやキュレーションサイトで「バッテリーは約 300 回から 500 回ほどの「充電」で寿命を迎える」などと記載されていたりしますが、これらは全て Apple Inc. のウェブサイトで iPhone 利用者向けに記載されている内容が、中途半端に広まっていると考えて差し支えありません。

Apple Inc. のウェブサイトで記載されている内容を分かりやすくかつ、正確に理解するには、所謂まとめサイトやキュレーションサイトではなく、以下の参考文献を読んで頂いた方が良いでしょう。


落下させた場合の安全性

リチウムイオン二次電池では、単電池又は組電池を作業台の上などから落下させても発火又は破裂を引き起こさないよう、JIS により定められています ( 質量が 7kg を超える組電池及び特殊な構造の組電池については、適用外 ) 。ただし過大な期待は禁物です。

JIS により定められた試験内容は「満充電した単電池又は組電池を、高さ 1,000 ± 10mm の地点から任意の方向でコンクリートの床に 3 回落下させる。試験後、そのサンプルを最低 1 時間放置し、目視検査を行う。」というものですが、機器に装着されている場合は試験高さが異なり、少し低くなります。

ですから、JIS の試験条件を超えて衝撃を加えた場合は電池内部で異常が生じている可能性がありますので、異変があってもすぐに対応できるように監視しながら充電するか、電池そのものを交換した方が宜しいでしょう。

なおリチウムイオン二次電池を圧壊させた場合、JIS では「発火又は破裂があってはならない」と要求されていますが、現実には最高で700℃以上の温度に達して発火するようです。温度に着目すると、例えば木材は樹種によって異なりますが、概ね450℃で自然発火しますので、如何に危険であるかお分かり頂けると思います。


おわりに

電子工作の中でも、リチウムイオン二次電池を扱う工作は危険度が高くなりがちですので、細心の注意が必要です。仕様書の内容をよく把握して、少しでも安全側になるように対策を行うよう、心がけてください。

最後になりますが、撤去した二次電池は居住地域の指定方法かリサイクル協力店への持ち込みなど、適切な廃棄処理を行ないましょう。協力店は、一般社団法人 JBRC リサイクル協力店検索画面で探す事が出来ます。


参考文献


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