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PC-9801 LX4 の二次電池について


ある日、某所にて PC-9801 LX4 を入手しました。製造から既に 20 年以上経過していますので、時代的に電解コンデンサや RTC 用の Ni-Cd 電池の液漏れが心配です。

産業用の Ni-Cd 電池の話にはなりますが、電池の更新周期は 4 年に 1 回程度とする事が望ましいとする資料 ( JEITA-既設の非常用放送設備の更新について ) もあるほどです。 ( どうでもいい話ですが、音声で周知するのは非常警報設備のひとつである非常用放送設備であって、自動火災報知設備ではありません。 ) 

さっそく分解調査を行うと Ni-Cd 電池の陰極側に液漏れの跡があるではありませんか。幸いなことに初期段階のうちでも、基板に広がる前の状態だったためパターンの腐食はありませんでした。


液漏れしている電池の処遇を考えましたが、結論を書いてしまうと Ni-Cd 電池を撤去して、代わりに Ni-MH 電池を設置しました。

ただ電池の交換に当たり各方面を調査したところ、安全上は制御回路の改造を行った方が良い事が判明したものの、必要な材料が入手出来なかったので制御回路の改造は行えませんでした。

そこで安全に使用するために、電源投入時間 ( 充電時間 ) の管理を徹底する方針としましたので、以下に調査した内容の詳細と、充電時間の参考計算例を記載します。


既存の電池はいったい何者なのか

電池の交換を行う前に、既存の電池がどんなものか知る必要があります。

PC-9801 のデスクトップ機やラップトップ機の RTC 用バックアップ電池は、発売時期として PC-9801DA 頃の機種までは 3-51FT-A、それ以降の機種だと製造ロットにより VL2330 または ML2430 を採用しているようです。PC-9801LX4 は 3-51FT-A でした。

同じ PC-9800 シリーズでも、PC-H98 では CR12600SE という、期待寿命 5 年の電池を使っています。期待寿命は 5 年ですが、条件が良ければ 15 年ぐらいは使えるという凄まじい電池です。

参考までに X68000 だと初期は GB50H-3、後期は CR2450、X68030 だと VL1220、FM TOWNS は CR2450、Dreamcast は製造ロットにより ML2020、ML2025、ML2032 ( ごく稀に ML2430 ) を採用しています。

上記の電池は多くが二次電池です。各電池の正式名称は 3-51FT-A、GB50H-3 は密閉形ニッケル・カドミウム蓄電池 ( JIS C 8705 ) 、VLxxxx はバナジウムリチウム二次電池、MLxxxxは二酸化マンガンリチウム二次電池 ( たぶん JIS C 8711 ) になります。

CRxxxx だけは一次電池で、CR12600SE と CR2450 は二酸化マンガンリチウム一次電池 ( JIS C 8500 および JIS C 8515 ) になります。

ちなみに、3-51FT-A を作っていた GS は 2004 年に YUASA と経営統合して GS ユアサになっています。


電池を交換するときは撤去する電池の仕様を確認し、同等品を用意して交換してください。何の対策もせずに、二次電池を一次電池で置き換えるのは論外ですし、二次電池同士で有っても種類により適切な充電電圧、電流が異なります。無理やり代用すると、充電時に電池が爆発する恐れがあります。

交換用の電池を探していて同じ型番の物を見つけた場合、全く同じ形状に見せかけて基板直付け用のタブがなかったり、電池とは別途ケーブルとコネクタを用意しなくては行けなかったりします。タブが必要な場合はタブ付を、ケーブルとコネクタは可能ならば交換前の電池から移植しましょう。

タブ付の電池を基板に半田付けする時は、電池の温度が極力上がらないよう注意します。一例として Panasonic ではコテ先温度 350 度で 5 秒以内に半田付けを行い、電池本体の温度が 85 度以上にならないよう、納入仕様書に記載しています。


Ni-Cd 電池は Ni-MH 電池に置き換える

ここまでは一般的な事を書いてきました。ここから先が問題です。二次電池を交換しようとする場合、問題となるのが Ni-Cd 電池です。この電池は既に生産が中止または縮小されています。

なぜかというと、電池の材料に人体への毒性が懸念されているカドミウムが使用されている為です。RoHS 指令でカドミウムの使用が規制されていることもあって、どのメーカーも Ni-Cd 電池の生産を直流電源装置や非常照明などの産業用も含め、縮小ないし中止しています。


余談ですが、かつては一般的な電線でも絶縁体の塩化ビニルに安定剤としてカドミウムが含まれていて、2001 年頃に PS one のケーブルで規制値を超えた事が報道されているのを覚えている方も居らっしゃるかもしれませんね。

ケーブルそのものには人体に毒性を与えられるほどカドミウムは含有されていませんでしたが、廃棄時の処理が不適切だとカドミウムが土壌に溶出、蓄積する恐れがあるため、適切な廃棄処理を行う必要があります。

現在では塩化ビニルにカドミウムを混入することは殆どなくなったようですが、カドミウムほか重金属類が混入していること自体を規制する動きもあり、日本国内の官公庁工事では RoHS 指令が始まる前から、グリーン庁舎政策に基づいてリサイクルしやすく、かつ、カドミウムなど重金属を含まない EM 電線しか使用が認められていません。


Ni-Cd 電池を単純に置き換えようとすると、一番性質が近い Ni-MH 電池で代用することが一般的に行われていて、3-51FT-A は 3/V80H-074763 で代用可能です。

ただ、意外と寿命が短くなるかもしれません。理由としては以下になります。

  •  Ni-MH 電池はセパレータが劣化しやすい

元々、Ni-MH 電池は充電時に発熱しますが、一般的な Ni-MH 電池では電池内部のセパレータに自己放電を抑えつつ使用時の特性の改善を図る目的で耐熱性が低い材料が使われている為に、Ni-Cd 電池と比べると劣化しやすくなっています。

  •  Ni-Cd 電池と Ni-MH 電池では満充電時の電圧が異なる

それに加え Ni-Cd 電池と Ni-MH 電池では、満充電時の電圧 ( これをデルタピークとよぶ ) と、満充電となっても充電を続けた場合の電圧の現れ方が異なります。充電電流や電池温度にもよりますが Ni-MH 電池の方が 10mV 程度と半分です。

  •  Ni-Cd 電池と Ni-MH 電池では維持充電時の電流値が異なる

追い打ちをかけるようですが、事実なので致し方ありません。詳細は次に書きます。


電池の充電速度の単位として「C」が用いられています。例えば、2,000mAh の電池を 2,000mA の電流で 1 時間充電する時は 1C になります。

電池の自然放電を補うための維持充電の場合、一般的に 0.1C と言われていますが、この数値は Ni-Cd の場合に一般的に言われる事であって、Ni-MH の場合は準定電流充電が 0.1C、維持充電はもっと小さくて 0.05C 〜 0.02C 程度です。
例その 1 、テキサスインスツルメンツ LM2576 の納入仕様書
例その 2 、Panasonic のニッケル水素電池カタログ
例その 3 、古河電池のコラム電池カタログ

ここで一つ注意していただきたいのが「トリクル充電」という単語です。世間ではこの言葉を維持充電と準定電流充電のどちらかの意味で使っていますから、注意する必要があります。


Ni-Cd 電池の場合、過充電に強いからか RTC 用やレジューム用では充電回路は抵抗 1 本で済ませて、準定電流充電でも維持充電時でも充電電流は 0.1C 固定、というケースが多かったようです。

Ni-MH 電池では制御コントローラを用いて準定電流充電を行った後、維持充電へ充電モードを移行する制御を行わなくてはなりません。さもなくば常時、電池が過充電に晒されてしまいます。過充電時は通常よりも激しい発熱を伴いますから、一層 Ni-MH 電池の劣化を促進する皮肉な結果となります。


Ni-MH 電池の充電制御は △T、−△V、△V の何れかで行い、さらに温度制御、過電圧保護制御、タイマー制御の何れかで確実に保護を行う事が基本です。

ところが、Ni-Cd 電池の充電回路はそういう事を行っていません。よって Ni-Cd 電池を Ni-MH 電池に置き換える時は、安全上は同時に充電制御回路を改造する必要が出てきますし、RTC 用やレジューム用では、そもそも制御回路を追加しなくてはならない場合も考えられます。


過去には −△V 充電のキットなどが販売されていたようですが、現在は販売されていないようです。また、制御回路の要となる充電用コントローラも単体での入手が困難なため、改造は困難と判断し諦めました。

単純に汎用のタイマー IC で設定時間後に充電方法を強制切り替えする方法も考えられなくはないですが、電池の充電状態を見てから自動的に切り替え時間を設定することや、精度の維持が困難ではないでしょうか。


電源投入時間を考える

ここまで来ると、普通は PC-9801LX4 の RTC 用の電池を外したままにしておくかもしれません。

しかし諦める私ではありません。ハードウェアやソフトウェアが駄目なら、運用の工夫で充電状態を管理することで安全を確保することに。

まずは既存でついていた 3-51FT-A の仕様を確認しなくてはなりません。電池の表記を確認すると、3.6V 50mAh となっています。この容量と計算式から電流値を推測すると、50mAh × 0.1C = 5mA となります。

次に 3/V80H-074763 の仕様を確認すると、3.6V 70mAh となっていますから、充電電流の瞬時値については問題ありません。ただ、満充電になった後に充電モードを移行させる事を行っていない可能性がありますから、この点について以下のようにすることで問題の解決を図りました。

なお RTC 回路の消費電流の実負荷が分からないと放電時間を求められないのですが、カレンダ IC である uPD4990A の消費電流が最大 100μA との事なので、発振回路の消費電流を 30μA 程度加算して、合計の消費電流は 0.13mA 程度と想定しています。

  1. 電池が放電した状態で 14 時間ほど電源を投入し、満充電にする。
     ( 14 時間という数字は、3/V80H-074763 を 0.1C で充電した場合の充電時間 ) 
  2. 放電してしまう時間は ( 70mAh ÷ 0.13mA ) ÷ 24 時間 = 約 22 日
  3. よって最大使用時間は 3 週間ごとに 14 時間までとし、メモリ効果や電源投入時の突入電流による本体への影響を考慮し、何度も起動、停止を繰り返さない。
  4. 使用しない場合も過放電を避けるため、極力、上記に沿って充電を行う。

上記で消費電流から算出した放電日数は、Dreamcast の説明書に記載された日数とほぼ一致します。

充電が面倒ならば電池を外しておくのも一つの手ですが、起動毎に日付と時刻、メモリスイッチの設定をやり直す必要があります。


どんなに頑張って電池の状態を管理をしても、液漏れするときは液漏れします。実例としてはKuni/JA1UZGのもろもろブログ - PC-9821Ne3レジューム電池トラブル発生などでしょうか。

液漏れしても基板へ被害が拡がらない様、静電気の発生には注意して小さなドレンパンのような物を設置し、その中に電池を収納するなどの対策を講じるのも一つの手でしょう。ただし密閉する事はあまり推奨できません。過放電で水素ガスが大量に漏れて溜まったままだと引火する危険性があったり、結露により短絡事故の発生が懸念されるためです。


二次電池を落下させた場合の安全性

Ni-Cd 電池や Ni-MH 電池では、単電池又は組電池を作業台の上などから落下させても発火又は破裂を引き起こさないよう、JIS により定められています。ただし過大な期待は禁物です。

JIS により定められた試験内容は「満充電した単電池又は組電池を、高さ 1,000 ± 10mm の地点から任意の方向でコンクリートの床に 3 回落下させる。試験後、そのサンプルを最低 1 時間放置し、目視検査を行う。」というものです。

ですから、JIS の試験条件を超えて衝撃を加えた場合は電池内部で異常が生じている可能性がありますので、異変があってもすぐに対応できるように監視しながら充電するか、電池そのものを交換した方が宜しいでしょう。


終わりに

如何だったでしょうか ? 

もしもご自身で Ni-Cd 電池を Ni-MH 電池で代用する行為に関してもっと詳しく知りたい方は、 PC を主体に扱ったウェブサイトではなく、ラジコン模型を主体に扱ったウェブサイトで探すと、理論から実際の運用まで詳しく研究されている方が居ますので、そちらをご覧になられたほうがいいでしょう。

これは FDD などドライブ類の駆動装置に使われているギアや、その潤滑油に関しても同様です。

最後になりますが、撤去した二次電池は居住地域の指定方法かリサイクル協力店への持ち込みなど、適切な廃棄処理を行ないましょう。協力店は、一般社団法人 JBRC リサイクル協力店検索画面で探す事が出来ます。


参考文献
二次電池について
JIS C 8712 ポータブル機器用二次電池 ( 密閉型小型二次電池 ) の安全性


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